研究領域 | 植物発生ロジックの多元的開拓 |
研究課題/領域番号 |
25113009
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河内 孝之 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (40202056)
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研究分担者 |
嶋村 正樹 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00432708)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 植物発生制御 / 陸上植物進化 / 苔類ゼニゴケ / 光形態形成 / 背腹性 / オーキシン |
研究概要 |
苔類ゼニゴケは陸上植物進化の基部に位置し、単相世代優占的な生活環をもつ。研究基盤も整備され、比較ゲノム解析に適した材料となっている。本新学術領域では、被子植物の発生制御システムをゼニゴケに対して実験的に投射し、植物発生制御系の成立過程を進化的に検証する実験を推進している。 本年度は、植物が季節を感知し成長相転換する機構の進化的起源に関する研究に進展が見られたため、これを中心に研究実績として報告する。植物は最適な季節に繁殖して自らの生存・繁栄を最適化するために、概日時計を利用して昼夜の長さを測ることで季節を認識している。シロイヌナズナではGI-FKF1複合体が日長に依存した成長相転換制御の中心的な役割を担う。ゼニゴケのゲノムにGI、FKF1に相同性を示す遺伝子が存在することを見出した。ゼニゴケのGI、FKF遺伝子を欠損させたゼニゴケの変異体では生殖器形成が起こらなくなるのに対し、これらの遺伝子が過剰に蓄積した変異体では季節に関係なく生殖器形成が促進された。GIタンパク質とFKFタンパク質はゼニゴケ体内で複合体を形成した。ゼニゴケのGIはシロイヌナズナgiの表現型を部分的に相補した。陸上植物の生活環は配偶体世代と胞子体世代という核相が異なる2つの世代が交互に繰り返すという特徴がある。今回の研究では成長相転換を制御する仕組みが配偶体世代と胞子体世代という異なる世代で共通していることを明らかにすることができた。つまり、この仕組みは、コケ植物の生殖器形成を制御する仕組みを起源とするものであり、この仕組みが陸上植物の進化の初期に形成されたことを明らかにした。 上記に加え、ゼニゴケがもつ転写因子や受容体キナーゼ遺伝子の全体像の理解を進めた。また、光質による成長相制御、細胞周期制御、青色光とオーキシンに依存した葉状体の背腹性決定、オーキシン信号伝達系、巨大細胞間隙である気室発生に関する研究で着実な進展が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ゲノム情報からの転写因子遺伝子の抽出を終えて、系統樹作成による解析を完了している。これら遺伝子のクローニングによるライブラリー化についても着実な進展が見られた。 個別の現象の研究としては、光による成長相転換について成果が上がった。公表部分に記載した日長依存的相転換制御では、明瞭な実験結果を得た。この成果は、既にNature Communicationに論文公表した。光質制御に関しても、遠赤色光呼応処理なしに相転換を示すbonobo変異体の原因遺伝子の有力な候補遺伝子を単離した。光受容からの細胞周期制御については制御因子に関するデータを蓄積するとともに、レビュー誌Curr Opn in Plant Biol誌に総説を公表した。青色光と重力を介した葉状体の背腹性決定ではオーキシン関与を明瞭に示した。オーキシン信号伝達系はAUX/IAAの関与を明らかにするとともに、ARF転写因子の相互作用を明らかにした。巨大細胞間隙である気室発生に関しても、nopperabo1変異体の原因遺伝子を同定し、Plant Cell誌に論文公表した。このように、研究で着実な進展に加えて論文発表も順調に行われた。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には25年度に得られた成果の取りまとめと得られた成果に向き合って研究を継続する。昨年度は突然変異体作成技法でもCRISPR/Casがゼニゴケで作用することがわかるという大きなブレークスルーがあった。また、ヒートショックプロモーターか機能することやCRE/LoxPシステムが機能こともわかった(連携協力者である西浜氏の成果)。また、各種レポーター遺伝子を使ったゲーウエイバイナリーベクターも一層整備された(連携協力者である石崎らの成果)。また発現解析に次世代シーケンサーを用いたRNA-Seq解析を導入することもできた(新学術の支援活動として)。これらの新しい手法を取り入れて、研究を更に加速する。 具体的には日長依存的相転換制御の解析では、今年度明らかにしたGI-FKF複合体の標的と予想される転写因子CDFの解析を推進する。 光質制御ではBONOBO遺伝子の作用メカニズムを遺伝学的手法と生化学的手法により進める。細胞周期制御に関しては光の制御と糖およびサイトカイニンの関連を調べる。背腹性制御の解析では、光受容細胞を明らかにするとともに、始原細胞の分裂に注目して解析を進める。オーキシン信号伝達では、ARF1およびARF2の直接の標的遺伝子同定を進める。気室発生をモデルとした細胞間隙の制御機構の解析では、ユビキチンリガーゼであるNOP1に結合するタンパク質を同定する。上記の項目を中心に関連する実験も含めて着実に展開することによって、研究を推進する。また、研究項目間の成果を相互の研究に活用することに加えて、領域内の共同研究にも展開する。
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