計画研究
陸上植物進化の基部に位置する苔類に属するゼニゴケをモデルとして植物発生の制御ロジックの解明を目指した。ゼニゴケがもつ制御系の単純さを活かし、発生制御と環境応答をつなぐ分子の実体解明、特に、光受容体と概日時計によって制御される栄養成長から生殖成長への相転換、光と植物ホルモンに依存した発生過程、成長に対する光合成シグナリングの分子的制御機構に関して研究を進めた。これまでに成長相転換の鍵の因子となる転写因子を同定した。その上流にはフィトクロムを光受容体、PIF転写因子をシグナル分子とする光質制御系とGI/FKF-CDFモジュールからなる日長制御系が存在した。オーキシンシグナリングの研究では、受容体TIR1が1分子種であることを利用して、オーキシンの植物発生における重要性を評価した。tir1欠損株は外部からのオーキシン投与に対して感受性を一切示さなかったが、死滅することはなく細胞塊としてゆっくりと増殖した。このことから、オーキシンは生存に必須ではないものの、秩序だった発生やパターン形成といった3次元的成長にはきわめて重要な因子であることが明瞭に示された。光による細胞分裂や細胞周期制御研究に関しては、その制御標的となる遺伝子を同定することができた。切断切片からの再分化過程に関しては、従来の観察に加えて、RNA-seq解析からも光とオーキシンがその過程を関与に関与することが支持された。ゼニゴケの遺伝子アノテーションや遺伝子発現情報の充実のため、データベースを改良し、ゲノム情報を一元的に活用するデータベースを作成した。遺伝子機能解析の研究基盤としてニッカーゼタイプのCas9を用いたオフターゲット効果の軽減、ダブルニッカーゼによる大きな欠失誘導が可能となった。制御系の分子同定や情報統合機構の解析を通じて、陸上環境変動に適応した植物の可塑的な成長・分化を可能にする機構の解明が進んだ。
1: 当初の計画以上に進展している
ゲノム編集に代表される研究提案時には存在しなかった実験手法を活用することで、分子遺伝学的な解析に各段の進展があった。特にニッカーゼタイプのCas9を用いて、大きなゲノム領域を欠失する変異体作成が可能となったことの意味は大きい。また、本領域の国際活動支援班との連携が進んだこと、および、昨年度からこの課題をもととする先進ゲノム支援の援助を受けたことにより、ゲノムデータベースの整備が一段と進んだ。これらの整備された実験基盤を活用することによって、突然変異体を用いた機能解析が加速した。また、これまで別々に扱われていた赤色光、青色光、オーキシンの信号伝達といった研究が互いにつながり始めた。更に、領域発足4年目にあたり、本領域の他の計画班員や公募班員との共同研究も進んだ。そのため当初の計画以上に進展してると評価した。
28年度に得られた成果をもとに研究を継続するとともに、最終年度であることを十分に意識して研究を取りまとめる。また、本領域の特色である数理解析や代謝解析との連携を強化する。計画の変更や遂行上の問題はない。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 10件、 招待講演 5件) 備考 (2件)
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