計画研究
1)胚発生に関わるチトクロムP450の同定と分子機能の解析:発生を制御する代謝経路の発見を目的として、シロイヌナズナのチトクロムP450機能破壊株を収集し、葉の形や根の長さなどの形態的表現型を定量的に解析した。そのうちの1つの破壊株では、実生の主根長が野生型に比べて短く、また低頻度ではあるが子葉のパターニングに異常が認められた。当該遺伝子の発現部位や、同じファミリーに属する既知のチトクロムP450の機能も考慮すると、当該遺伝子は胚発生の過程で、脂肪酸代謝に関与していると推定される。現在、この遺伝子の生理機能と酵素活性について検討している。2)倍数体植物のメタボローム解析:倍数体の植物ではしばしば代謝物蓄積量が増加しているが、これが倍数化の直接の影響なのか否かは未解明である。そこで東大・塚谷博士と共同で、コルヒチン処理によりシロイヌナズナを4倍体化してメタボローム解析をおこない、倍数化による代謝物蓄積の変化は生物種、生理条件、器官に強く依存することを示した。3)代謝の数理モデリング:化学反応ネットワークの構造から、酵素活性の変化に対する代謝物濃度の応答を予測する数理理論を発展させた。ネットワークの形と代謝物の応答を結びつける一般則を利用して、学芸大・Ferjani博士が進めている、スクロース合成におけるピロリン酸過剰蓄積の効果を解析した。その結果、現在の理解に基づくスクロース合成ネットワークでは、ピロリン酸が過剰蓄積してもスクロース量は減少しないことが明らかとなった。さらに様々なネットワークの改変を解析することで、限られた少数の改変だけが期待されたスクロース濃度の応答を実現できることが分かった。4)ゼニゴケのセリン生合成酵素の解析:代謝と発生を結ぶリンクとも考えられているセリン生合成酵素遺伝子の解析をゼニゴケを用いて開始し、組換えタンパク質の酵素活性を確認した。
2: おおむね順調に進展している
分子遺伝学的解析、数理モデリングとも、概ね計画通りに進展しているため。
今年度より、セリン生合成を対象としてゼニゴケを用いた代謝研究を開始した。セリンは動物にとっては非必須アミノ酸であり、つまり食餌からの摂取によらず自分で合成する必要がある重要なアミノ酸であるといえる。実際に、細胞増殖、個体発生、ヒトの高次機能制御におけるセリン生合成の重要性がマウスやヒトを用いた研究で報告されている。本研究では、これまでおこなってきたシロイヌナズナにおける研究をゼニゴケに展開することで、セリン生合成の植物個体発生における役割を解明したいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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