計画研究
始原生殖細胞(PGC)は、配偶子に分化し、次代の生命を生み出す唯一の細胞である。本研究では、このような発生運命や性差を獲得したPGCが形成される機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、以下の成果を得た。1.前年度に、母性Ovoの下流遺伝子同定のため、Ovo機能阻害PGCにおいて発現変動を示す遺伝子を同定した。これら下流候補遺伝子の正常PGCにおける発現を解析したところ、PGCにおいて高発現する遺伝子はOvo機能阻害により発現が低下すること、逆にPGCで発現が低く、体細胞で高発現する遺伝子はOvo機能阻害により発現が上昇することが明らかとなった。このことは、OvoがPGCと体細胞の遺伝子発現の違いを生み出す重要な因子であることを強く示唆する。2.Mamoタンパク質のzn-fingerドメインMZDを初期胚中で強制発現する発現系を確立し、MZDが強くvas遺伝子の発現を活性化することを見出した。本年度は、Mamoの相互作用因子として、H3K27アセチル化酵素CBPを新たに同定した。MZDとCBPを共発現すると、MZD単独の強制発現よりさらに強くvas遺伝子の発現を誘導することが明らかになった。このことは、MamoがCBPの機能を介して遺伝子発現制御をおこなっていることを示唆するものである。3.生殖細胞特異的遺伝子を活性化する遺伝子ネットワークを明らかにするため、カイコ雌生殖細胞由来の細胞株(BmN4)を用いて、PGC特異的マーカー遺伝子vasaの発現に必須な転写制御遺伝子のスクリーンをほぼ終了した。4.そのほか、Nanosの下流遺伝子の機能解析を開始するとともに、PGCの性差の確立に関わる新たな候補遺伝子の同定、PGCにおけるミトコンドリアの品質管理機構に関する研究も開始した。
2: おおむね順調に進展している
Ovoが、PGC高発現遺伝子を活性化し、逆に体細胞性遺伝子の発現を抑制することを明らかにできたことは、PGCにおける遺伝子発現機構を明らかにする上で特に意義のある研究成果である。そのほかの研究も問題なく進行しており、本研究が順調に進行していると判断する。
現在行っている研究を順調に遂行するとともに、ショウジョウバエとカイコさらにマウスに共通してPGCで発現する遺伝子をもターゲットとして、機能解析を行うことを予定している。これにより、PGC形成の共通原理の一端が明らかになると期待される。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 5件)
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