計画研究
本研究では、始原生殖細胞(PGC)と多能性幹細胞の違いを生み出している遺伝子ネットワークの解析により、マウスのPGC形成機構を明らかにし、さらにその進化上の普遍性をいくつかのモデル生物を使って解明することを目的とする。これまでの研究で、転写因子のMaxやBrg1などが、マウスES細胞において生殖細胞特異的遺伝子の発現を包括的に抑制していることを明らかにしている。まずプラナリアでMaxノックダウン(KD)を行ったところ、調べた6種類の生殖細胞特異的遺伝子のうち、2種類の遺伝子の発現がKDに依存して有意な発現上昇を示すことがわかった。またBrg1-KDでは、この6種類の遺伝子の中でMax-KDの場合とは異なる3種類の遺伝子の発現が有意に上昇した。これらの結果から、プラナリアではマウスES細胞とはことなりMaxは一部の生殖細胞特異的遺伝子の発現抑制に係わっていると考えられた。またニワトリ初期胚の多能性幹細胞であるブラストダーム細胞を培養し、shRNA発現ベクターを導入し、Max-KDを行うと、調べた3種類の生殖細胞特異的遺伝子の中で1つの遺伝子は有意に発現上昇、2番目の遺伝子は上昇傾向、残りの1遺伝子は減少傾向を示すことがわかり、ニワトリにおいてもMax-KDの効果がマウスES細胞とは異なると考えられた。一方、有意に発現上昇した1遺伝子についてタンパクレベルでの発現を免疫染色により調べたところ、発現細胞数が有意に増加することが明らかになり、Max-KDによりより多くの生殖細胞が形成される可能性が示唆された。さらにゼブラフィッシュ初期胚から樹立したES細胞でMax-KDを行ったところ、調べた6種類の生殖細胞特異的遺伝子の全てが上昇傾向を示すことがわかり、MaxがゼブラフィッシュES細胞ではマウスES細胞と同様の働きをしている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
プラナリアとニワトリ胚では、生殖細胞遺伝子の発現抑制に対するMaxの機能はマウスES細胞とは異なると結論できた。一方、ニワトリ胚ではMaxの機能阻害により始原生殖細胞形成が促進される可能性が示唆された。またゼブラフィッシュES細胞では、マウスと同様にMaxが生殖細胞特異的遺伝子発現を包括的に抑制している可能性が示唆された。
ニワトリ初期胚細胞でのノックダウンは、ブラストダーム細胞からES細胞を樹立し、Max-KDにより生殖細胞特異的遺伝子の包括的な発現誘導が起こるかを調べる。また、in vivoでブラストダーム細胞でのMax-KDを行い、誘導される始原生殖細胞数に対する影響、および誘導された始原生殖細胞の配偶子への分化能を調べる。ゼブラフィッシュにつては、ES 細胞へのshRNAベクターの導入によるMax-KD、およびゲノム編集によるMax-KOを行い、生殖細胞特異的遺伝子の発現誘導が、より顕著に起こるかを調べる。また初期胚にin vivoでMaxのKD, KOを同様に行い、PGC形成と分化に対する影響を調べる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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