計画研究
本研究では、始原生殖細胞(PGC)と多能性幹細胞の違いを生み出している遺伝子ネットワークの解析により、マウスのPGC形成機構を明らかにし、さらにその進化上の普遍性をいくつかのモデル生物を使って解明することを目的とする。これまでの研究で、転写因子のMaxなどが、マウスES細胞において生殖細胞特異的遺伝子の発現を抑制していることを明らかにしている。プラナリアでMaxのノックダウン(KD)を行ったところ、一部の生殖細胞特異的遺伝子の発現の上昇が見られたが、その程度は小さく、またin situバイブリダイゼーションでは、局在した発現上昇はみられなかった。またニワトリ初期胚のブラストダーム細胞を培養して得た多能性幹細胞様の細胞でMax-KDを行った場合も、一部の生殖細胞遺伝子の、わずかな発現上昇が見られるにとどまった。一方、ゼブラフィッシュ初期胚から樹立したES細胞でMax-KDを行ったところ、調べた生殖細胞特異的遺伝子の全てが上昇傾向を示すことがわった。これらの結果から、プラナリアとニワトリでは、Maxの生殖細胞遺伝子発現抑制への関与は小さいが、ゼブラフィッシュES細胞ではマウスES細胞と類似した働きをしている可能性が示唆された。またマウスの始原生殖細胞が多能性幹細胞を経て奇形腫に変化することを阻害するDnd1の作用機構に関して、Dnd1がヒストンH3K27メチル化の維持を介して、奇形腫形成を促進する標的遺伝子の発現を抑制することを明らかにした。さらに、マウスPGCと多能性幹細胞で発現が顕著に異なる遺伝子を選択し、それらの発現をPGCで操作した際の、多能性幹細胞への再プログラム化効率の変化を調べるスクリーニングを行い、再プログラム化を促進する複数の候補遺伝子を得た。またPGCと多能性幹細胞のメタボローム解析を行い、両者でエネルギー代謝経路の顕著な違いがあることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
プラナリアとニワトリ胚では、生殖細胞遺伝子の発現抑制に対するMaxの機能はマウスES細胞とは異なり、ゼブラフィッシュES細胞では、マウスと類似した機構が働いていること可能性を結論した。さらに新たに、PGCが多能性幹細胞へ変化することを抑制するDnd1の作用機構、および、この変化を促進する可能性のある候補遺伝子を同定することに成功した。一方、メタボローム解析からPGCと多能性幹細胞のエネルギー代謝経路の違いが、これら細胞間の相互変換の制御に重要であることが示唆された。以上のように、マウスに関して新たに開始した研究により顕著な進展が見られた。
マウスPGCの多能性幹細胞への変化を促進する候補遺伝子の作用機構、およびエネルギー代謝経路の違いによる、多能性幹細胞とPGCの相互変換の制御機構について研究を進め、研究期間の終了までに論文発表することを目指す。またゼブラフィッシュ初期胚においてPGC形成に及ぼすMaxの影響を、変異体をTALEN法により作出し調べる。この際、胚性致死変異体を皮下移植により胚発生を進行させて解析を試みる。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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