計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究は、マウス配偶子幹細胞(GSC)である精子幹細胞の自己複製と分化を制御する細胞内外の遺伝子ネットワークを解明することを目的としている。その前提となる、GSCの細胞レベルでの同定と精巣組織内における挙動のダイナミクスを解析した。すなわち、GFRα1を発現する細胞全体が、単独で存在するAs細胞であるか複数の細胞が細胞間橋によって連結した合胞体であるかという形態的不均一性に関わらず、一つの幹細胞プールとして機能することを明らかにした。Asは不完全分裂によって合胞体を形成し、合胞体は断片化によってAsへと転換する、これを繰り返すことで、継続する精子形成を支えていることが判明した (Hara et al., Cell Stem Cell 2014)。これは、Asのみが幹細胞として働き、合胞体は幹細胞の機能を失っているという、現在定説となっている古典的なモデルを覆すものであった。分子レベルでの解析も進め、精巣組織内で未分化なGSCが全て分化してしまうことなく、その数(密度)を一定に保つ機構に関わる細胞外シグナル候補因子を複数同定した。また、未分化型精原細胞がレチノイン酸のシグナルを受容して分化型精原細胞に転換して、その幹細胞ポテンシャルの多くを失うステップにおいて、DNAメチルトランスフェラーゼの発現スイッチをともなってゲノムのグローバルなエピジェネティックな状態が大きく変化することを見出した (Shirakara et al., Development 2013)。この分化ステップ以前が可逆的である一方、このステップはほぼ不可逆的であるという、細胞レベルでの性質の変化をもたらす分子レベルでの発見であり、epigenetic checkpointと名付けた。
1: 当初の計画以上に進展している
精子形成幹細胞が精巣の組織の中でどのようなダイナミクスによって分化を行うのか、という問いに答えることなく本研究の最終的な目的を達成することは不可能である。本研究によって明らかにされたダイナミクスは、教科書的な定説からは予想出来ない新規なものであった。この予想外の結果によって、幹細胞の機能にとって本質的な過程が、従来考えられてきた「非対称分裂」ではなく、「不完全分裂」と「断片化」であることが強く示唆された。これは、本研究領域におけるパラダイム変換と考えられる。更に、不可逆的な分化過程で起こるエピジェネティックチェックポイントの発見 (同時に、可逆的な段階のエピジェネティック状態は類似していることの発見) は、幹細胞の自己複製と分化の基盤となる重要な発見である。以上の成果に鑑み、当初の計画以上に進展していると判断した。
上記のGSCの挙動を制御する細胞外シグナル分子の機能を、GSCの不完全分裂、断片化の制御に注目して、個体および培養細胞を用いて詳細に解析する。更に、これらが細胞内の遺伝子発現ネットワークに及ぼす影響をcDNAマイクロアレイなどの網羅的解析手法により解析する。不可逆的なエピジェネテック状態の変化をもたらす細胞内外の分子機構を、レチノイン酸シグナルに注目して解析する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (22件) (うち招待講演 8件) 備考 (2件)
Cell Stem Cell
巻: 14 ページ: 658-672
10.1016/j.stem.2014.01.019
Curr Pathobiol Rep.
巻: 2 ページ: 1-9
Development
巻: 140 ページ: 3565-3576
10.1242/dev.094045
http://www.nibb.ac.jp/germcell/
http://www.nibb.ac.jp/adventures-in-germline-wonderland/index.html