計画研究
本研究はマウス配偶子幹細胞(GSC)である精子幹細胞の自己複製と分化を制御する細胞内外の遺伝子ネットワークを解明することを目指し、以下の具体的目的を掲げている。すなわち、①GSCの細胞レベルでの同定、②精巣組織内における挙動のダイナミクスの計測と数理モデルによる解析、③幹細胞ダイナミクスを制御する細胞外因子およびそれを発現する精巣細胞の同定、である。27年度までに、以下の成果を得ている。①GFRα1を発現する細胞が幹細胞として機能するダイナミクスを、ライブイメージング、運命追跡、および数理解析によって単一細胞レベルで明らかにした(Cell Stem Cell 2014)。②未分化型精原細胞のレチノイン酸受容体Rargの発現の有無が、分化する細胞と未分化にとどまる細胞を作り出すことを見出した(Development 2015)。28年度は、解析を継続して以下の成果を得た。①精子幹細胞を初期分化に向かわせる因子としてWntを同定した(この知見は先行研究と一致する)。さらに、幹細胞の一部がShisa6を発現すること、Shisa6が細胞自律的に機能するWnt阻害因子であることを見出した。Shisa6を欠損するマウスを作成したところ、Shisa6が、分化促進シグナルであるWntに対する幹細胞の抵抗性に寄与していることが明らかとなった。以上から、分化促進因子に対する細胞自律的な阻害因子の発現が不均一であることによって、分化する細胞と未分化に止まる細胞が生み出されるという新規のメカニズムを提唱した(Stem Cell Reports 2017)。②生体ライブイメージングによって明らかとなった精巣組織内の未分化型精原細胞の動きの定量的解析をおこなった。③ヒストンメチル化酵素Kmt2b (M112)コンディショナルノックアウトマウスの精子幹細胞の挙動を検討し、その動きに異常があることを見出すとともに、幹細胞分化が障害されることを詳細に解析した。
2: おおむね順調に進展している
上記のように本研究の目的に向かって成果が着実に得られ、論文発表に結びついている。また、今後に向けて、幹細胞の数を一定にするメカニズムや、精原細胞の動き、幹細胞が成立するメカニズムに関する解析が進展している。いずれも新規の知見であり、インパクトのある公表が期待される段階にある。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
現在までの研究を継続し以下の解析を行う。①精子幹細胞の数を決めるメカニズムとそれに関わる細胞外因子の解析。②精子幹細胞の動きの解析とその意味の追求。③Kmt2b欠損精原細胞の異常ゲノム修飾と、幹細胞分化、動きの障害の関連性の追求。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 8件、 招待講演 6件) 図書 (1件) 備考 (3件)
Stem Cell Reports
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