計画研究
本研究は体外培養における配偶子産生系の構築とそれを用いて配偶子産生メカニズムを解明することである。具体的にはES/iPS細胞から始原生殖細胞を介して卵子(および精子)を分化誘導する培養系を開発する。また始原生殖細胞の分化に必要である遺伝子Ovolの機能を培養系を用いて解明する。本年度の研究によりES細胞から分化誘導した始原生殖細胞(PGCLCs)を体外培養により成熟した卵子まで分化させることに成功した。この方法ではPGCLCsを雌の胎仔生殖巣の細胞と長期に共培養し、その過程で様々な培養条件を変化させることにより、成熟卵子にまで分化させた。その過程において、胎仔の生殖巣の細胞は顆粒膜細胞および莢膜細胞に分化し、形態的には極めて体内にある卵胞構造と類似していた。また本年度の研究により、Ovolのファミリー遺伝子Ovol1, Ovol2, Ovol3を単独または全てを欠損させたES細胞を作製した。このES細胞にはPGCLCsへの分化がモニターできるBlimp1-mVenus/Stella-ECFPが組み込まれている。Ovolファミリー遺伝子を欠損させたES細胞からPGCLCsを分化誘導させた結果、Ovol2遺伝子を欠損させた細胞株においてPGCLCsへの分化の阻害が認められた。またOvolファミリーをすべて欠損させたES細胞では、PGCLCsへの分化阻害の程度はOvol2遺伝子を単独で欠損させたものと比べて、特に変化は認められなかった。このことよりOvol2は始原生殖細胞のごく初期に必要である可能性と、Ovol1やOvol3との機能的補完はなく、単独で機能している可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
体外における配偶子産生系の構築については、研究計画では5年間を通して行うことになっている。しかしながら、現在までのところES/iPS細胞から成熟した卵子が作製されており、これらの卵子の機能性が証明されれば、研究開始から2年で卵子産生系の開発は行ったことになり予測よりも早い進展である。また始原生殖細胞の初期分化におけるOvolファミリーの機能解析については、Ovol2が最も重要な役割を担うことが明らかになっている。今後はOvol2の詳細な機能解析やショウジョバエとの機能的比較を介して、新学術領域研究の目的である種横断的な生殖細胞コアネットワークの同定に貢献できると考えられることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
体外における配偶子産生系の構築に関しては、得られたES/iPS細胞由来の成熟卵子についての機能性を検証する。具体的には、それらの卵子を体外受精に供し、仮親に移植することにより個体発生能を有するかについて検討する。また同時に、体内における卵子産生系の各段階(始原生殖細胞、減数分裂移行期卵母細胞、原始卵胞、二次卵胞、未成熟卵子、成熟卵子)における遺伝子発現プロファイルをRNA-seqにより作製する。これらを体外卵子産生系で得られるそれぞれの分化段階の細胞の遺伝子発現を比較することにより、ES/iPS細胞由来の卵子の評価を行う。Ovolファミリーの機能解析については、Ovol2欠損ES細胞から得られるPGCLCsまでの各分化段階(ES細胞、エピブラスト様細胞、PGCLCs)について遺伝子発現をRNA-seqにより解析する。これらの解析結果を、すでに得られているハエの同様の結果を比較することによりコアネットワークの抽出を試みる。またOvol2のChIP解析によりターゲット遺伝子の同定を試みる。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件)
Cell Stem Cell
巻: 16 ページ: 517-532
10.1016/j.stem.2015.03.002.
Stem Cells
巻: 32(10) ページ: 2668-2678
Animal Science Journal
巻: 85(6) ページ: 617-626
0.1111/asj.12199