計画研究
本計画研究の目的は、第一にマウスの多能性幹細胞(ES/iPS細胞)を起点とした配偶子産生系(特に卵子産生系)を再現する体外培養方法を構築すること。第二に開発した体外培養系を利用して、in vivoでは細胞数が少なく解析が難しいPGCsの維持機構について他の計画研究班と協力して解析を行い、PGCsの維持を制御するために種間で保存されている遺伝子ネットワークを同定することである。平成26年度までにES細胞から分化誘導した始原生殖細胞を胚齢12日目の雌生殖巣の体細胞と共培養させることにより、成熟卵子の作製に成功した。RNA-seq解析により、これらの培養過程で得られる始原生殖細胞、2次卵胞中の卵母細胞および成熟卵子の遺伝子発現は体内のそれぞれの卵母細胞系列と極めて良く似ていることが明らかになった。これらのことから卵子産生系の構築は得られた成熟卵子の機能性の検証のみとなった。次に小林班との共同研究により、ショウジョバエOvoのマウスホモログであるOvol遺伝子のPGCsにおける機能について体外培養系を用いて解析している。現在までに、すべてのOvolファミリー(Ovol1, 2, 3)はPGCsの初期分化段階で発現していること、さらにOvol2遺伝子はOvol2a, 2b, 2cのスプライシングバリアントがあるが、これらのうちOvol2aと2bがPGCsの初期過程で発現していることを明らかにした。それぞれのノックアウトES細胞の解析の結果、Ovol2とOvol3のノックアウトES細胞からの始原生殖細胞の分化が阻害されていることが明らかとなった。平成26年度ではすべてのOvolファミリーのノックアウト(TKO)ES細胞の作製と解析を行った。またTKO細胞にそれぞれのOvol遺伝子を補完したES細胞を作製した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は特に多能性幹細胞を用いた卵母細胞系列の分化培養系の構築において、当初の計画を上回るペースで進展している。平成26年度までにES細胞から分化誘導した始原生殖細胞を胚齢12日目の雌生殖巣の体細胞と共培養させ、様々な培養条件を並行して検討することにより成熟卵子の作製に成功した。体外培養で得られた多能性幹細胞由来の卵母細胞系列における遺伝子発現をRNA-seq解析により体内のものと比較すると、予想以上に高い相同性が認められた。また卵母細胞の産生効率は極めて安定的に再現され、一度の培養実験で約200-400個の成熟卵子が得られるようになった。ショウジョバエOvoのマウスホモログであるOvol遺伝子のPGCsにおける機能について体外培養系を用いて解析している。平成26年度において、Ovol-TKO ES細胞(OvolファミリーすべてをノックアウトしたES細胞)を用いた分化誘導研究において、Ovol2やOvol3の単独ノックアウトよりもTKO ES細胞では始原生殖細胞の分化が阻害されていることが明らかとなった。このことはOvol2とOvol3の機能冗長性を示唆するものであった。またOvol-TKO ES細胞にそれぞれのOvol遺伝子やバリアントを導入したES細胞を作製している。これによりそれぞれ遺伝子/バリアントの単独の機能について解明できることが期待される。
多能性細胞を用いた卵母細胞の分化培養系の構築については、得られた卵子を体外受精に供することによりその機能性を検証する。具体的には多能性幹細胞由来の卵子の個体への発生能、および個体が得られた場合はその健常性や妊孕性を検証する。また遺伝子インプリントなどのエピゲノムについても詳細に解析する。また、これまでES細胞からの分化誘導のみをおこなってきたが、iPS細胞が本分化誘導系においてES細胞と同様に卵母細胞への分化するかについて検討する。Ovolファミリーの機能解析については、Ovol-TKO ES細胞にそれぞれのOvol遺伝子やバリアントを導入したES細胞から始原生殖細胞を誘導することにより、その機能的十分性を解析する。その後、それぞれのES細胞から分化誘導した始原生殖細胞を用いてRNA-seqにより遺伝子発現解析を行う。この解析により、Ovolファミリーが制御する遺伝子群について検討する。またこの結果をショウジョバエのOVO変異体の遺伝子発現の結果と比較することにより、これらの動物種間で保存されている遺伝子ネットワークを抽出する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件)
Stem Cells
巻: 32(10) ページ: 2668-2678
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