計画研究
平成28年度までの研究により、多能性幹細胞から卵子までのすべての過程を培養皿上で行う卵子産生培養システムを構築し、多能性幹細胞から培養皿上で卵子を得ることに世界で初めて成功した。この培養システムでは始原生殖細胞から卵子ができるまでの5週間を3つの培養期間に区切り、各期間について培養条件の検討を行った。開発過程では様々な基礎培地、血清濃度、成長因子、有機化合物などの組み合わせを変えることにより、卵子を育てる卵胞構造を効率良く構築できる培養条件を探索した。その結果、ES細胞、胎仔の細胞由来のiPS細胞、さらには成体の尻尾由来のiPS細胞のいずれの細胞からも卵子を産生することができた。また得られる卵子数も極めて多量であり、一回の培養実験で約600個から1,000個の卵子を産生できることができた。卵子産生培養システム内における卵子形成過程の遺伝子発現の変動は体内の卵子形成過程と極めて良く似ていた。この卵子産生培養システムで得られた卵子は野生型の雄マウスの精子と受精させると、健常なマウスに発生した。得られたマウスは野生型のマウスと同様に成長し、正常に子供をつくる能力も有していた。これらの成果はNatureに発表され、国内外から高い評価を得た。また一方でショウジョバエOvoのマウスホモログであるOvol遺伝子の始原生殖細胞(PGCs)における機能について解析した。マウスOvol遺伝子はOvol1, 2, 3の3つのファミリーがある。Ovol1,2,3各遺伝子またはすべての遺伝子をノックアウトしたES細胞を作製し、それぞれのES細胞からPGCsを誘導した結果、Ovol2ノックアウトES細胞およびトリプルノックアウト細胞においてPGCsの分化障害が認められた。これらのことから主にOvol2が初期のPGCsの分化に重要な働きがあることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
研究期間全体を通しての目標であった多能性幹細胞から機能的な卵子を誘導する培養系を1年前倒しで開発できた。さらにそれらの成果を平成28年度のうちに論文掲載することができた。これらのことから体外培養系の開発においては計画以上に進展している。また、もうひとつの目標であるショウジョバエとマウスとの間に保存された生殖細胞分化メカニズムの解明について、Ovol遺伝子のマウスPGCsにおける機能解析は順調に進んでいる。具体的には各ノックアウト細胞を用いた遺伝子発現解析が終了しており、それらを詳細に解析することにより、ショウジョバエOvoとの共通性の有無を評価できる状況である。これらの成果は平成29年度中には論文として報告する予定である。
体外卵子培養系については、他の動物の多能性幹細胞を用いた構築に、着手する。Ovol遺伝子の解析については、平成28年度に行った遺伝子発現解析をもとに、Ovol2を中心ととした遺伝子ネットワークを予想する。これらのネットワークとショウジョバエのOvoを中心とした遺伝子ネットワークと比較する。これらから共通する遺伝子ネットワークを抽出して、それらの有意性について検討する。必要に応じて、抽出されたネットワークに属する遺伝子をES細胞でノックアウトし、その機能性を検討する。これらの解析を通して、抽出された遺伝子ネットワークが種間に保存された普遍的なPGCsの維持機構であった場合には論文作成にとりかかる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 10件) 産業財産権 (1件)
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