本研究ではこれまでに、多能性幹胞から個体発生能を持つ卵母細胞を誘導できる培養系を世界に先駆けて開発した。この培養系では多能性幹細胞から誘導した始原生殖細胞を生殖巣体細胞と凝集させた再構成卵巣を培養膜上で培養することで、二次卵胞を形成させ、それらを成長培養することにより十分に成長した卵母細胞を得ることができる。この卵母細胞を体外成熟・受精させることで、新生仔を得ることができる。 上述する培養系の開発の中で、興味深いことが明らかとなった。それはこの培養系では原始卵胞(卵巣の中で最も未成熟な状態で休止する卵母細胞をもつ卵胞)が形成されないことである。そこで、生体内と体外培養系での卵母細胞系列の分化の相違をトランスクリプトームで比較解析した。主成分分析法で比較すると、生体内のみ特異的に認められる卵母細胞の分化パターンが認めれた。この遺伝子発現パターンは個体が成長しても変化しないことから、休止状態にある原始卵胞中の卵母細胞であることを示唆している。 次に原始卵胞を形成する生体内の卵母細胞に特異的に発現する遺伝子18個を単離した。これらの中にはFoxo3やFiglaといった、これまで原始卵胞の形成・維持に寄与することが既に報告されている遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子のうち、機能的に未知のもの選択し、体外培養系の卵母細胞に強制発現した。その結果、強制発現した卵母細胞において成長の休止を呈するものが認められた。このことから、これらの遺伝子が卵母細胞の休止を促す機能をもつと考えられた。これらの知見は、これまで不明な点の多い原始卵胞における卵母細胞の休止メカニズムについての分子基盤を提供するものである。
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