研究領域 | 動物における配偶子産生システムの制御 |
研究課題/領域番号 |
25114008
|
研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
尾畑 やよい 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (70312907)
|
研究分担者 |
平尾 雄二 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (10355349)
|
研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
|
キーワード | 卵子 / 体外成長 / 体外培養 / 始原生殖細胞 |
研究実績の概要 |
平成26年度までに新生仔マウスの卵巣から機能的な卵の産生に成功してきた。平成27年度は、始原生殖細胞からの機能的な卵の産生を目指し、主に以下の研究を行った。 1)マウス胎仔生殖巣の器官培養:始原生殖細胞のみを含む胎齢12.5日のマウス胎仔生殖巣を採取し、新生仔マウスと同様の条件で培養した。しかし、体外で分化した卵巣内では著しい卵胞形成不全が認められた。具体的には、一つの卵母細胞を顆粒膜細胞層や莢膜細胞層が囲む一般的な卵胞構造をとらず、卵胞の境界が不明瞭であり、卵胞は脆弱であった。 2)卵胞形成異常の原因究明:体外で分化した卵巣の卵胞形成不全の原因を解析するため、体内で分化した新生仔マウスの卵巣と体外培養7日目の卵巣とトランスクリプトーム解析を実施した。その結果500を超える遺伝子の発現が有意に変動しており、これらの共通の上流制御因子をパスウェイ解析した結果、エストロジェンが検出された。 3)卵胞形成異常を克服する新規培養系の構築:エストロジェン受容体は遺伝子発現の転写調節を行っている。そこで、エストロジェン受容体のアンタゴニストを培地に添加することで、過度に活性化されたエストロジェンシグナルを抑制すれば、卵胞形成が改善されると考えた。アンタゴニストを添加した結果、卵胞形成は大幅に改善された。 4)卵胞の体外培養:培養卵巣より得られた卵胞の培養条件を検討した結果、高分子化合物であるPVPの添加により卵胞の生存率および卵母細胞の成熟率が大幅に改善されることが明らかとなった。 5)PGCから体外で産生された卵の発生能:1)~5)の研究の結果、得られた卵を体外成熟、体外受精、胚移植に供試したところ、1卵巣当たり最大で7匹のマウスを得られることができ、マウスの表現型の正常性や妊孕性についても確認された。以上の結果から体外で機能的な卵を産生する新規in vitro系が構築できたものと判断した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、マウス始原生殖細胞から機能的な成熟卵を産生する培養系は5年間で遂行する研究計画を立案していたが、研究分担者や領域内研究者との連携を密にすることで、3年目に達成することができた。また、RNA-seq等で得られたメガデータの適切な解釈により、培養系確立を大きく前進させることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度以降は、さらに実用的な新規培養系への発展を目指し、以下の研究を行う。 1) 成体マウス卵巣内の原始/一次卵胞から卵を産生する新規in vitro系の構築:平成27年度は成体加齢マウス(32週齢~)より原始卵胞を単離し、2週間以上、体外培養が可能なことが明らかになった。しかし、これらの原始卵胞の成長を誘導することができなかった。平成28度は、既にin vivoでの原始卵胞の活性化に有効であると報告されたbpVあるいは740YPなどの効果について調べ、原始卵胞の成長促進方法を検討する。 2)in vitro系を利用した卵形成を制御する新たな因子の探査:確立したin vitro系を基礎研究に応用するため、平成27年度は卵母細胞への遺伝子導入法を検討した。その結果、GFPのmRNAがエレクトロポレーション法により成熟卵に導入可能であることがわかった。そこで平成28年度は、CRISPR/Cas9法への将来的な応用をふまえ、非成長期卵母細胞への適切かつ簡便な遺伝子導入法を検討する。具体的には、エレクトロポレーション法、あるいはウイルスベクター法を検討する。さらに、遺伝子導入後の非成長期卵母細胞の培養技術については、体細胞と非成長期卵母細胞とを用いて再凝集卵巣の構築方法と培養方法について検討する。
|