計画研究
コンピューターのハードディスクの記録などとは異なり、動物の記憶は様々な要因により変化する。例えば、エピソードなどの記憶は時間経過と共に次第に汎化することが知られている。このことは、動物が時々刻々と変化する外界環境に適応することに役立っていると考えられる。一方で、不適切な汎化は、PTSDなどの不安障害の患者に見られる症状の一つとして表れる。このように、記憶の汎化は生物学的にも臨床的にも重要な現象であるにもかかわらず、その仕組みの多くは不明である。そこで、私たちはマウスの海馬と扁桃体依存的であることが知られている文脈依存的恐怖条件付け学習課題を用いて、記憶の汎化のモデル系を確立し、その神経基盤を明らかにする研究を行った。そのために、以前に代表者らが開発した独自の遺伝子改変マウスを用いて、学習時に活動した神経アンサンブルを遺伝学的に標識を行い、更にその記憶を想起する際に活動した神経アンサンブルの標識を同一個体の同一切片上で行った。これらの脳切片上で、想起時に再活動する神経細胞の割合の解析を脳領域(海馬CA1領域、海馬歯状回、体性感覚皮質)ごとに行った。その結果、恐怖記憶の汎化に伴い、海馬CA1領域と海馬歯状回の神経アンサンブルの活動に変化が生じることを見いだした。一方で、体性感覚皮質の神経アンサンブル活動のパターンには顕著な変化は見られなかった。これらの結果をまとめ、原著論文として公表を行った(Yokoyama & Matsuo, 2016)。
2: おおむね順調に進展している
記憶ダイナミズムの一例として、時間経過に伴う文脈依存的恐怖記憶の汎化に着目して、マウスを用いた行動実験のモデル系の確立を行った。更に、汎化が生じる際に脳内のどの脳領域でどのような活動神経アンサンブルの変化が生じているのかという問題に対して、記憶想起時に再活動する神経アンサンブルの解析を行い、その神経基盤の一端を明らかにし、原著論文として公表した。
更に記憶の汎化を含む記憶ダイナミズムの神経基盤を理解するために、リアルタイムのin vivo大規模神経活動記録法などを組み合わせた研究を推進し、データをまとめることができるように努める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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