計画研究
嗅覚は、餌を探し出す、交配相手を見つける、親子を識別する、危険から逃避するなど、すべての生物にとって個体の生存や種の保存に直結する重要な化学感覚である。すなわち外界に存在する多種多様な匂い分子が嗅細胞で受容され、その情報が嗅球さらには高次嗅覚中枢へと伝達・処理されて、嗅覚イメージの形成、快不快の情動創出、さらには匂い記憶の成立へと至る。本研究では嗅覚記憶の時空間的ダイナミズムの分子・細胞・回路メカニズムの全貌を明らかにすることを目的とし、遺伝学・発生工学・神経解剖学・神経活動イメージング・電気生理学・神経行動学など多様な実験手法を駆使できるゼブラフィッシュをモデル生物とした統合的解析を行う。平成26年度においては以下の研究を行い、次年度につながる重要な成果を得た。1)嗅覚インプリンティングを司る神経回路メカニズム解明のために、サケの母川回帰行動を実験室内のゼブラフィッシュで再現するための行動解析系の改良を行った。新たなY迷路システムの導入により、上流から投与した2種類の溶液が魚が泳ぐアリーナ内で、明確に分離されて混ざり合わない状況を作り出すことに成功した。本システムの利用によって、匂い分子に対するゼブラフィッシュの誘引あるいは忌避行動を、これまで以上に客観的かつ信頼性高く評価することが可能となった。2)嗅覚インプリンティングを効率よく誘起する匂い分子の探索・同定に成功した。通常は忌避行動を惹起させることが報告されているある特定の匂い分子を発達期のゼブラフィッシュに暴露すると、それらの魚は成体になってからその匂い分子に誘引行動を示すことを見いだした。すなわち同じ感覚入力が、魚の経験によって忌避と誘引の行動変化ダイナミズムを引き起こすことに成功した。
2: おおむね順調に進展している
嗅覚インプリンティングの実験システムの開発と改良、嗅覚記憶を引き起こす匂い分子の同定など、研究全般においてほぼ予定通り順調に進行している。
今後は、嗅覚記憶を引き起こす匂い分子の嗅覚受容体の同定、その受容体を発現する嗅細胞にGFPおよびGal4を発現するトランスジェニックゼブラフィッシュの作製、嗅覚インプリンティングに関連する脳部位の同定など、本研究をさらに進展させる。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 9件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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http://www.brain.riken.jp/jp/faculty/details/53