計画研究
嗅覚は、餌を探し出す、交配相手を見つける、親子を識別する、危険から逃避するなど、生物にとって個体の生存や種の保存に直結する重要な化学感覚である。すなわち外界に存在する多種多様な匂い分子が嗅細胞で受容され、その情報が嗅球さらには高次嗅覚中枢へと伝達・処理されて、嗅覚イメージの形成、快不快の情動創出、さらには匂い記憶の成立へと至る。本研究では嗅覚記憶の時空間的ダイナミズムの分子・細胞・回路メカニズムの全貌を明らかにすることを目的とし、遺伝学・発生工学・神経解剖学・神経活動イメージング・電気生理学・神経行動学など多様な実験手法を駆使できるゼブラフィッシュをモデル生物とした統合的解析を行う。平成28年度においては以下の研究を行い、次年度につながる重要な成果を得た。前年度に確立した嗅覚報酬記憶の実験系を用いて、特定の匂い刺激と餌報酬の連合記憶を形成させたゼブラフィッシュ(paird)と形成させていないゼブラフィッシュ(unpaird)を作成した。これらの魚に匂い刺激だけを与えた後に脳切片を作成してc-Fos in situハイブリダイゼーションを行ったところ、unpairedフィッシュと比較してpairedフィッシュにおいてc-Fos発現細胞数が有意に多い視床神経核を発見した。また哺乳類の梨状皮質に相当するゼブラフィッシュの脳領域Dpなどでは、pairedフィッシュとunpairedフィッシュでc-Fos発現細胞数に違いは観察されなかった。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、匂い分子と餌報酬の連合記憶実験において興味深い知見が得られた。研究全般においてほぼ予定通り順調に進行している。
今後、匂いと餌報酬の連合記憶において神経活動が亢進した神経核の機能解明へと進む。また、ポジティブなモチベーションに関連した嗅覚行動(餌への誘引行動、交尾相手への求愛行動など)とネガティブなモチベーションに関連した嗅覚行動(天敵からの逃避行動、警報フェロモンによる忌避行動など)に関わる嗅覚中枢を同定し、これらの脳部位が匂い経験によってどのような可塑的変化を受けるのかを解析し、記憶ダイナミズムとの関連を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Current Biology
巻: 印刷中 ページ: -
生化学
Nature Neuroscience
巻: 19 ページ: 897-904
10.1038/nn.4314
Endocrinology
巻: 157 ページ: 1408-1420
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こころの科学
巻: 増刊号 ページ: 57-62
http://www.brain.riken.jp/jp/faculty/details/53