研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
25115006
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
齊藤 実 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 基盤技術研究センター長 (50261839)
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研究分担者 |
佐藤 守俊 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00323501)
粂 和彦 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 教授 (30251218)
坂井 貴臣 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (50322730)
上野 太郎 東邦大学, 理学部, 講師 (30648267)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | ドーパミン / ショウジョウバエ / 学習記憶 |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究から、匂い情報を記憶中枢キノコ体に送る触覚葉(AL)と体性感覚情報を伝達する上行性腹側神経束(AFV)を同時刺激すると、同時入力を受けたキノコ体から、何らかのシグナルがドーパミン (DA) 作動性終末に伝えられ開口放出が誘導されることなどを明らかにした。本年度はこの放出機構によりDA神経が多数の標的細胞を持ちながら、特に同時入力を受けたキノコ体神経細胞に対して特異的にDAが放出され得ることを見出した。これまでの研究からDAは匂いと電気ショックを用いたショウジョウバエ嫌悪性匂い連合学習において、無条件刺激(US)の罰性体性感覚情報をキノコ体に伝達すると考えられていた。しかし我々のex vivoの結果からUS罰性体性感覚とCS匂い情報の入力後にDAが放出されることが示唆された。そこで熱遺伝学的手法により可逆的にDA放出を抑制したところ、DAは匂いと電気ショックの連合時でなく、連合後に放出されることが学習成立に必要なこと、さらに記憶の読み出し時にもDAの放出が必要なことが見出された。そこでこれらex vivoと行動遺伝学的解析で見出された結果をin vivoで検証するための電気化学的測定法 (in vivo Fast Scan Cyclic Voltammetry, FSCV) をショウジョウバエ用に開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DAは強化シグナルとして働くとされてきたが、強化の実体・機序は不明な点が多く、DAは連合学習において無条件刺激の情報処理に関与すること、特にショウジョウバエの嫌悪性連合学習ではUS-ショック情報をキノコ体に伝達すると信じられてきた。しかしex vivoイメージング解析と行動遺伝学的解析からDAはUSショック情報の伝達とは無関係であり、CSとUSの連合後にこれを強化するために放出されることが強く示唆された。さらに記憶情報の読み出しにもDAの放出が必要であるという、DAの新たな機能も示唆された。これらの結果は新たなDA放出機序の確立に留まらず、これまで考えられていた連合学習におけるDAの機能を書き換える概念の創出に繋がる成果となり得る。現在構築中のin vivo FSCVが順調に稼働するようになれば、我々が提唱する機序に沿ったDA放出が実際にin vivoで起こっているか詳細な検証が可能となる。こうしたことを鑑みて順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
匂いと体性感覚経路からの同時入力を受けたキノコ体神経細胞で産生され、DAの放出を促す逆行性シグナルは何か? DAの放出がLTE誘導や匂い連合学習の鍵となるのであれば、キノコ体での逆行性シグナルの産生、輸送、DA神経終末での受容に関わる遺伝子の変異体は連合学習の変異体となるであろう。そこで前年度に引き続きAL + AFV刺激によるDA放出を指標に、この過程が障害される変異体を既存の連合学習変異体から検索する。併せて生理活性物質の合成経路が障害された変異系統から同様にDA放出が障害される系統を検索することで逆行性シグナルの実体に迫る。またキノコ体神経細胞により逆行性に誘導されるDA放出が既存のSNARE複合体を基盤とした開口放出機構とどのような相違点を持つのかCa2+要求性を起点として検証する。in vivo FSCVの確立を進め、予想通りCS+USの条件付け後や記憶読み出し時にDA放出が検出できるか、出来るとすればキノコ体のどの領域に向かって放出されるか?などを明らかにする。
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