研究領域 | 多様性から明らかにする記憶ダイナミズムの共通原理 |
研究課題/領域番号 |
25115008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
多羽田 哲也 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 教授 (10183865)
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研究分担者 |
江島 亜樹 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任講師 (00548571)
村上 智史 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (10463902)
山崎 大介 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (80588377)
廣井 誠 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (80597831)
阿部 崇志 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (70756824)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 記憶 / キノコ体 / Caイメージング / CREB |
研究実績の概要 |
(1)匂い罰/報酬連合学習による記憶形成におけるCREB応答細胞の機能を探った。その結果、KCsのg細胞群はCREでラベル細胞(CRE-p)と残りの細胞(CRE-n、前述のgdを含む)に2分され、2時間罰記憶の獲得、固定、想起、すべての過程にCRE-pが必要であり、CRE-nは阻害的に働くこと、逆に、報酬記憶では獲得、固定、想起、すべての過程にCRE-nが必要であり、CRE-pは阻害的に働く。このように相反するvalenceに機能する記憶スイッチを見出した。この機構のさらに下流の神経回路の機能を明らかにすべく、5つの細胞種が同定されているKCsのg細胞のoutput神経(MBON)の解析を行った。その結果、g5MBONはCRE-pと同様に2時間罰記憶の獲得、固定、想起、すべての過程に必要であった。またg2MBONはCRE-nと同様に2時間報酬記憶の獲得、固定、想起、すべての過程に必要であった。 (2)上記(1)のvalenceをコードする回路の機能を理解するために機能イメージングを行なった。CRE-nあるいはCRE-p細胞に温度制御によって神経出力を正に制御するTrpA1あるいは負に調節するshiを発現させ、CRE-nあるいはCRE-p細胞のシナプス出力を人為的に制御する。この個体にg2MBONあるいは g5MBONの細胞にカルシウム指示タンパク質GCaMPを発現させ、回路の機能結合を探った。その結果、g2MBONおよび g5MBON共にCRE-nとCRE-p細胞から正の制御を受けているらしいことがわかった。 (3)オスの求愛抑制フェロモンであるcVAへの匂いの馴化機構について、薬理学的および遺伝学的解析を行い、嗅神経の感受性低下には抑制性神経伝達物質GABAの嗅覚一次中枢内局所介在神経への入力が必須である事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)匂い罰/報酬連合学習のvalenceに特異的な3次神経、及びその下流の4次神経を同定したことはこのような記憶を形成する機構を知る上で大きな成果と言える。これらの神経細胞全ての出力が記憶の獲得、固定化、及び読み出しのあらゆるステップで必要とされることの発見も、この回路が大きな役割を担っていることを示唆していると考えられる。 (2)上記(1)のvalenceをコードする回路の機能を理解するために機能イメージングを行なった。CRE-p細胞が罰記憶に特異的に必要とされることから電気ショックに特異的に応答する可能性が考えられたが、実際はCRE-p及びCRE-n細胞共に応答したので、valenceのコードは単純なUSの特異的入力によるものではない。また、CRE-pとCRE-n細胞からg2MBONおよび g5MBON細胞の制御を調べた結果、共にCRE-nとCRE-p細胞から正の制御を受けているらしいことがわかった。以上の機能イメージングの結果からはこの神経回路にpositiveとnegativeのvalenceの特異性を付与する仕組みが説明できない。カルシウムレベル以外の指標を用いた解析が必要かもしれない。 (3)関与が示唆されていた抑制性神経伝達物質GABAについて、受容体のRNAiを用いた遺伝学的スクリーニングにより、入力を受ける作用神経グループを明らかにした。得られた知見から嗅覚感受性を可塑的に制御する中枢神経回路モデルを構築しこれを発表した(Tachibana et al. 2015, PLoS ONE)。
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今後の研究の推進方策 |
(1)匂い罰/報酬連合学習に機能する3次神経CRE-nとCRE-p、それらの下流にあると思われるg2MBONとg5MBON細胞がpositiveとnegative valenceを特異的にコードする仕組みを明らかにする。また、上記の神経細胞の出力が記憶形成の固定の時期にも必要とされることからその機能を探る。 (2)上記を明らかにするためにも機能イメージングの手法の改良を行う。光刺激による神経細胞の活性調節にはCsChrimsonのような新しく開発されたチャンネルを試す。また、上記の神経細胞に記憶痕跡を探る。 (3)経験依存的なcVA感受性制御において嗅覚系局所介在神経はどのような生理学的役割を担っているのか?様々な遺伝子の発現を阻害するRNAiスクリーニングや免疫組織化学的解析によりcVA応答嗅神経への投射部位におけるシナプス特性を明らかにする。
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備考 |
多羽田哲也研究室ホームページ http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/fly/htmls/index.htm
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