計画研究
動的クロマチン構造の実体の解明を目指して、構造生物学、計算科学、生化学、細胞生物学的研究を推進した。本年度は、クロマチンの基本構成ユニットであるヌクレオソームを試験管内で再構成し、その構造および動的性質を、構造生物学的、生化学的、および細胞生物学的手法によって解析した。まず、ある種のがん細胞において形成されるCENP-AとH3.3を1分子ずつヘテロに含むヌクレオソーム(CENP-A/H3.3ヌクレオソーム)の構造と形成メカニズムを明らかにするため、X線結晶構造解析などの構造生物学的解析、および生化学的解析を行った。まず、精製タンパク質を用いて、CENP-A/H3.3ヌクレオソームを高純度で調製することに成功した。そして、CENP-A/H3.3ヌクレオソームは、CENP-Aホモヌクレオソームよりも著しく安定であることを見いだした。また、X線結晶構造解析によって、CENP-A/H3.3ヌクレオソームの詳細な立体構造を解明した。これらのことから、がんの悪性化に寄与するヌクレオソームの構造生物学的および生化学的特徴についての詳細が明らかになった。さらにH2A.Bバリアントを含むヌクレオソームの構造と機能の解析を行うために、コントラスト変調中性子小角散乱法によりヌクレオソーム中のヒストン(またはDNA)のみの構造を観察し、ヒストンH2A.Bを含むヌクレオソームが通常型のヌクレオソームと比較して、ヒストンテールの配置が異なることを見出した。また分担者堀は、CENP-Aを基点としたセントロメア形成のメカニズムを明らかにするため、染色体工学技術を用いた細胞生物学的な解析を行った。その結果、CENP-Aヌクレオソーム中のH4K20はモノメチル化されており、そのメチル化がCENP-Aを中心としたセントロメアクロマチン構造の形成に必須であることを解明した。
1: 当初の計画以上に進展している
ヌクレオソームレベルでのクロマチンの動的な構造変化を解析するために、CENP-A/H3.3ヌクレオソームおよびH2A.Bヌクレオソームの再構成を行い、それらの構造解析および生化学的解析を行うことに成功した。特に、本研究で開発したコントラスト変調中性子小角散乱法によるヌクレオソーム中のヒストン(またはDNA)のみの構造を溶液中で測定する方法は、今後のクロマチン動的構造研究に利用出来る重要な手法となる。さらに、生化学的および細胞生物学的な解析から、CENP-Aを基点としたセントロメア特異的クロマチン構造形成のメカニズムの解明に重要な知見を得ることもできた。これらの成果は当初の計画を大きく上回っており、本年度は計画以上に研究が進展したと考えられる。
本年度の研究によって、今後のクロマチン動構造研究を遂行する上で重要な技術を確立することに成功した。特に、ヒストンH3バリアントを1分子ずつヘテロに含むヌクレオソームの再構成する技術は、ヒストンH2Aバリアントを1分子ずつヘテロに含むヌクレオソームの解析に直接応用出来る。さらに、コントラスト変調中性子小角散乱法は、X線結晶構造解析では不可能であったフレキシブルなヒストンテール領域の解析を可能とし、多様なヒストンバリアントを含むヌクレオソームの動的性質の解析に応用することができる。今後は、これらの技術を用いて、多様なヒストンバリアントの解析へと研究を発展させる。また、高次のクロマチンを再構成して、それらの構造と機能の解析を行う。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (18件) (うち査読あり 18件、 オープンアクセス 15件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (44件) (うち招待講演 2件) 図書 (2件) 備考 (2件)
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