計画研究
昨年度に引き続き、さまざまなヒストンバリアントや修飾ヒストン、修飾DNA、損傷DNA、リンカーヒストンおよびクロマチン結合因子などを含むヌクレオソームを試験管内で再構成し、生化学的、構造生物学的、物理化学的、細胞生物学的解析を行うことにより、それらの機能メカニズムについての新たな知見を多数得た。1) ヒト精巣で高発現するH3バリアントであるH3.5を含むヌクレオソームが主要型ヌクレオソームと比べて不安定であることを見出し、不安定化のメカニズムを構造生物学的に明らかにした。H3.5が転写開始点近傍に局在することも明らかになり、H3.5ヌクレオソームの不安定な性質が、精巣特異的な遺伝子発現制御に重要である可能性が示唆された。2) 同じく転写制御において重要な役割を担うH3K122クロトニル化修飾についても、ヌクレオソーム構造に大きな影響を与えないもののヌクレオソームを不安定化する効果をもつことが明らかになった。3) セントロメア近傍のDNAメチル化は、ヌクレオソームのDNA上での配置やDNAの柔軟性、ひいてはクロマチンの高次構造に影響を与えることが明らかになった。4) セントロメア蛋白質の解析を行い、CENP-Bが、セントロメアに局在するCENP-Aヌクレオソームを特異的に認識して結合するメカニズムを生化学的解析により明らかにした。また、分担者堀を中心として、CENP-CやHJURPなどの機能についての解析を西郷生物学的手法により行った。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、ヒト精巣特異的なH3バリアントのH3.5を含むヌクレオソーム、主要型H3のK122がクロトニル化されたヌクレオソーム、セントロメア近傍のsatellite 2 DNAを用いて再構成したヌクレオソーム、メチル化を入れたsatellite 2 DNAを用いて再構成したポジショニングの異なる2種類のヌクレオソームなどの結晶構造解析に多数成功し論文を出版するに至った。また、セントロメア蛋白質CENP-Bが、これまでの予想に反してCENP-Aに直接結合することが明らかになり、CENP-B box(CENP-Bが特異的に認識するDNA配列)がヌクレオソーム上のCENP-A近傍に配置している場合に、CENP-BがCENP-AとCENP-B boxの両方に結合してCENP-Aヌクレオソームに最も安定的に局在する、という驚くべきメカニズムが明らかになった。さらに、ヌクレオソームが12個連結したアレイの作製技術を確立し、リンカーヒストンH1が結合した時のヌクレオソームアレイの凝集度を分析超遠心機を用いた沈降速度法により評価するなど、高次クロマチン構造を研究する基盤も整ってきた。これらの成果は、当初の計画を大きく上回るものであり、本年度は計画以上に研究が進展したと評価できる。
これまでに立体構造や物理化学的性質、生理学的機能を明らかにしてきたヒストンバリアントの他にも、機能未知のバリアントは未だに数多く存在する。したがって、機能未知のヒストンバリアントを用いてヌクレオソームを再構成し、生化学的、構造生物学的、物理化学的、細胞生物学的解析を引き続き行う。その際、ヒストン修飾についても合わせて解析を行う。また、がん細胞で見いだされた変異を導入したヒストンを含むヌクレオソームについても同様に解析を行う。さらに、DNAの損傷部位がヌクレオソーム上で損傷認識蛋白質により認識されるメカニズムを解明するために、損傷DNAを用いて再構成したヌクレオソームと損傷認識蛋白質との複合体を調製し、その構造と物性についての解析を行う。また、さまざまなクロマチン結合因子によるクロマチンの機能制御機構を解明するために、リンカーヒストンやヘテロクロマチン蛋白質、セントロメア蛋白質、転写因子などのクロマチン結合因子を精製してターゲットヌクレオソームとの複合体を再構成し、その立体構造や物理化学的性質、生理学的機能を明らかにする。これらの解析には、モノヌクレオソームだけでなく、状況に応じてトリヌクレオソームやヌクレオソームアレイも用い、高次クロマチン構造の視点からの研究も推進する。それに伴いX線結晶解析による構造決定が手法として最適でない場合が出てくることが考えられるので、構造生物学的手法としてクライオ電子顕微鏡による構造解析も導入する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 4件、 謝辞記載あり 10件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 図書 (2件)
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