真核生物のゲノムDNAは核内にクロマチンとしてコンパクトに収納されている。クロマチンの基本構造はヌクレオソームであり、クロマチンの状態はヌクレオソーム同士のパッキング状態やヌクレオソーム単体の構造によって大きく変わる。この構造変化と遺伝子発現が密接に関わっていることから、クロマチンの構造変化を理解することは重要である。 本研究では、新学術領域内で見つかった変異ヌクレオソームやヒストンバリアントの全原子分子動力学シミュレーションを、スーパーコンピュータを使って行った。ヒストンバリアントを持つヌクレオソームでは、ひとつのアミノ酸変異によってヌクレオソームに巻き付いたDNAが解離しやすくなることを見出した。また、分子モデリングとシミュレーションにより、新規のヌクレオソーム構造(ヒストン6量体のヌクレオソームとヒストン8量体のヌクレオソームが重なった構造)の構造を決定し、そのダイナミクスを解析した。共同研究によるゲノム解析から、この構造体は転写開始上流に多く存在することが示唆された。さらに、ヌクレオソーム同士のパッキング状態の構造とエネルギーの関係を明らかにした。このパッキング状態は、片方のヌクレソームのH4テールが、もう片方のヌクレソームとの相互作用の仕方に依存していること、異なるパッキング状態はエネルギー的にほぼ等しい、ことから、H4テールの相互作用の仕方によって多様なパッキング状態が存在しうることを示した。
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