研究領域 | 動的クロマチン構造と機能 |
研究課題/領域番号 |
25116006
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
原口 徳子 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 主任研究員 (20359079)
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研究分担者 |
淺川 東彦 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (70399533)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 細胞核 / クロマチン / 細胞構造 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
次の3項目に関して研究を行い、以下の成果を得た。 1)人工ビーズを用いたクロマチン機能に必要な核膜因子の同定:オートファジーレセプターであるp62タンパク質を細胞から除去すると、外来DNA発現効率が有意に増加することが分かった。このメカニズムを解明するためにDNAビーズを用いて解析し、p62除去がDNA結合ビーズ周辺でのオートファジーを抑制し、核膜形成を亢進することを明らかにした。また、目的因子を結合した人工ビーズを生きたHeLa細胞に導入し、ビーズ周辺で誘導される核膜および核構造を、独自に開発したライブクレム法などのイメージング法を用いて解析し、BAF以外の因子として、複数のタンパク質が核膜形成能力を持つことを明らかにした。 2)天然微小核を用いたクロマチン機能を保証する核膜因子の解明:人工染色体をもつ細胞株HT1080を用いて、この細胞で高頻度に見られる微小核の形成について検討した。薬剤の添加によって人工染色体の脱落を誘導し、微小核形成を誘導した。生細胞観察により細胞分裂期からの経過時間が分かった微小核を選択して、独自に開発したイメージング法を用いて微小核の核膜構造について評価し、核膜構造がヒストンのリン酸化状態に関与することを発見した。 3)進化的に保存された核膜タンパク質のクロマチン機能に果たす役割の解明:進化的に保存されている核膜タンパク質として、LEMドメインタンパク質LEM2の機能を、分裂酵母を用いて解析し、セントロメア領域のヘテロクロマチン構造を増強する働きがあることを明らかにした。核膜孔複合体を構成するヌクレオポリンのうちNup133ホモログ(Nup131とNup132)について、それらの欠質変異体の表現型を野生株と比較し、核膜孔内での局在と局在化ドメインを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)人工ビーズを用いたクロマチン機能に必要な核膜因子の同定:オートファジーレセプターであるp62タンパク質を細胞から除去すると、外来DNA発現効率が有意に増加することを明らかにした。目的因子を結合した人工ビーズを生きたHeLa細胞に導入し、ビーズ周辺で誘導される核膜および核構造を、独自に開発したイメージング法(生細胞蛍光イメージング法やライブクレム法など)を用いて解析した。人工ビーズに結合させる因子として、核膜形成に必要と考えられるタンパク質Ranを中心に検討を行った。具体的には、Ranおよびその変異体であるRanQ69L(GTP結合型)、RanT24N(GDP結合型)の核膜形成能力を、間接蛍光抗体法やライブクレム法などのイメージング法を用いて解析した。前年度までに解析を行ったDNA,BAF,RCC1との能力の違いを検討し、核膜形成に関与する因子を明らかにした。 2)天然微小核を用いたクロマチン機能を保証する核膜因子の解明:人為的に人工染色体を脱落させてつくった微小核のクロマチン構造および核膜構造を、独自に開発したイメージング法(ライブクレム法)を用いて解析した。その結果、特殊な核膜構造がヒストンのリン酸化状態と密接に関与することを発見した。 3)進化的に保存された核膜タンパク質のクロマチン機能に果たす役割の解明:分裂酵母を用いて核膜タンパク質LEM2の機能を解析し、セントロメア領域でのヘテロクロマチンを増強することを明らかにした。また、免疫電子顕微鏡法を用いて、第一減数分裂のセントロメア機能に重要なNup132が、核膜孔の細胞核側にのみ存在することを明らかにした。これに関して、現在、論文発表準備を進めている。 すべての項目で、目標を達成しており、関連の論文を発表することができたことから順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
3つの項目に対して、以下のことを検討しながら、研究開発を進めていく。 1)人工ビーズを用いたクロマチン機能に必要な核膜因子の同定:人工的に構成したクロマチン(あるいはヌクレオソーム)をビーズ上に結合させる方法を開発する。ヒストンの種類や修飾状態、DNA長などを、思い通りに変えたクロマチンビーズ(あるいはヌクレオソームビーズ)を作製する。これらのヌクレオソームビーズを細胞内に導入し、ビーズ周辺で起こる核膜構造を解析する。また、ビーズに結合させたクロマチン側で起こる変化についても解析し、クロマチン機能に必要な核膜因子を明らかにする。 2)天然微小核を用いたクロマチン機能を保証する核膜因子の解明:去年に引き続き、蛍光生細胞イメージング法とRNAiによるノックダウンを使って、微小核の維持に働く核膜因子を明らかにする。微小核内のクロマチン構造と核膜構造との相関を検討し、クロマチン機能に重要な働きをする核膜因子を明らかにする。 3)進化的に保存された核膜タンパク質のクロマチン機能に果たす役割の解明:去年に引き続き、進化的に保存された核膜タンパク質としてLEM2、bqt4、Nup98、Nup132などに着目し、核膜タンパク質とクロマチン機能・構造との関連を、遺伝学と蛍光イメージング法あるいは電子顕微鏡法を用いて明らかにする。特に、目的タンパク質の変異体と野生株のミニ染色体の脱落頻度を比較することによって、これらの核膜タンパク質がセントロメア機能に果たす役割について明らかにしたい。
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