計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
細胞核内のクロマチンの周囲には、核小体、核スペックル、核骨格など様々な核内構造体が存在するが、これらは、RNAとタンパク質で構築されている超分子複合体である。核内構造体には、遺伝子の転写やRNAのプロセッシングに関するタンパク質が蓄積されており、これは、核内で特定の機能を持つ因子が局所で高密度に存在することにより、クロマチンを鋳型とした核内事象が効率的に起きることを可能としている。一方で、クロマチン内のゲノムDNA上で転写が起きることは、局所的にRNAが蓄積することとなり、それが、核内構造体の形成の種である、という考え方も近年報告されている。本研究では、核内構造体とクロマチンをつなぐ因子を、核-クロマチンインターフェース(I/F)因子として位置づけて、I/F因子のクロマチン制御における分子メカニズムの解析を行う。本年度では、核小体に焦点を絞り、siRNAライブラリーを用いて1000程度の因子をノックダウンし、減弱することによって核小体の形態が不全となるような20種のI/F 因子を同定した。今後、これらの細胞におけるrDNA遺伝子およびゲノムワイドな遺伝子の核内配置の変化や、転写への影響を調べることが可能となった。同時に、各形態画像のライブラリーを構築し、機械学習を用いたお互いの形態の類似度を計測することを可能とした。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者と分担者の以前の研究成果に基づきつつ、国内外の研究状況に柔軟に対応しながら、動的クロマチンの維持や制御に関する研究を行った。本研究ではまず、核内構造体のひとつである、核小体構造の形成に関わる因子を検索した。siRNAライブラリーを、96穴プレートに生育させたHeLa細胞にそれぞれをトランスフェクションし、その後、核小体を可視化する免疫染色法を施行して、セルベースドアッセイスクリーニングを行った。その結果、20の候補因子を同定することができた。また、同時に1000遺伝子のノックダウン時の核小体形態の画像ライブラリーを構築することができた。一方、乳がん細胞において特定の条件下で培養すると、転写活性に関わる新規非コードRNAが産生され、核内で構造体を形成することを見いだした。クロマチン内のゲノムDNA上で転写が起きることで、局所的に非コードRNAが蓄積し、それが、核内構造体の形成の種となる現象の可能性を考えている。また、IF因子の一つである核内アクチンファミリーに結合するbicycle peptideのスクリーニングを行い、Arp5およびArp8に結合するbicycle peptideを単離した。既に報告済みの3論文の他に数報の論文を印刷中および準備中である。
本年度の研究成果をもとに、核内構造体がクロマチンの構造や機能にどのように関わっているかについて、解析をすすめる。まず、核小体構造の形成に関わる候補因子20のうち、興味深いものを選択する。遺伝子の核内配置やクロマチン構造の制御に関わる可能性などを含め、細胞内での分子機能を解析する。また、非コードRNAが核構造とクロマチンの制御に関わる可能性について検証する。さらに、種々の核小体形態の画像ライブラリーを用いて、遺伝子機能と核内構造体の形態の関連を探る。画像解析技術を確立する。また、単離したArp5およびArp8に結合するbicycle peptideを利用し、in vitroおよびin vivoの実験系を用いてIF因子の機能を阻害し、それに伴う遺伝子機能や核内構造の変化を解析する。研究の一部は、新学術領域内での共同研究としてもすすめる。
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