計画研究
クロマチンは細胞核内で、核小体、核スペックル、核骨格などの様々な構造体に囲まれて存在し、制御を受けている。核内構造体は、遺伝子の転写、複製、損傷修復などの核内事象に関わる因子を豊富に含むRNA-タンパク質巨大複合体である。近年、これらの構造体はそれぞれの核内イベントの結果、局所に特定RNAやタンパク質が蓄積したことをきっかけに起きた物理的な物性変化(相転移、相分離、凝集など)を示すものである可能性が指摘されている。これらの相転移が結果的に、周囲のゲノムDNAに特定因子を供給することとなり、核内に微少環境を形成していると考えられる。核内構造体が核内3次元空間でのクロマチン制御に機能し、その破たんは疾患に関わると考えられるが、詳細な仕組みについては不明である。本研究では、核内構造体とクロマチンをつなぐ核-クロマチンインターフェース因子(以下、I/F因子と略称)に着目し、クロマチン動構造の制御に関わる新規分子メカニズムを明らかにする。また、I/F因子が疾患や発生分化に関わる可能性を検証し、I/F因子に特異的に結合して機能阻害するペプチドやオリゴヌクレオチドを作製する。本研究により、I/F因子を軸とする高次元でのクロマチン制御の分子メカニズムが理解されるとともに、がんなどでみられる核の異型や、発生・分化過程におけるダイナミックなクロマチンと核構造の変性の機序と意義が理解されると期待される。クロマチンと核構造変化を画像解析により定量解析するなどして、新規薬剤スクリーニング法の基礎を確立し、核内構造に関連する疾患に対する創薬の基盤づくりへの道筋をつけることに貢献する。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では現在まで、(1) I/F因子の分子機能の解析、(2) ハイコンテント画像解析による新規I/F因子の検索、(3) 疾患を含む高次生命現象におけるI/F因子の役割解析などに主に焦点を絞って研究をすすめてきた。 これらの結果、(1) 乳がんの再発に関わる非コードRNAエレノアと、エレノアが形成する新規核内RNAクラウド構造体を発見し、(2)核小体の形成と維持に関わる新規I/F因子群を同定し、(3) 核内アクチンファミリータンパク質によるクロマチン制御機能を解析し、(4)機械学習を用いた独自の画像解析技術を確立する、など多くの研究成果を挙げた。I/F因子が新たなクロマチン制御様式を担う重要な分子であること、乳がんなどの疾患に関わり、治療や診断の標的になりうることを示した。また、独自性の高い画像解析技術を生物学に導入することが有用であることを示した。その結果、動的クロマチンの構造と機能に、核内構造体関連因子が果たす役割が明らかとなってきており、今後の詳細な分子メカニズムの解明の方向性が示されてきている。研究成果は、原著論文や日本語総説などで報告し、国内外の学会で発表、論議した。また同時に、新聞や領域・大学のホームページなどを介して一般社会にわかりやすい形で報告した。これらのことから、本研究は、申請当初の計画にしたがって順調にすすんでいると判断する。
1. I/F因子の分子機能の解析: 現在までの研究により、核内非コードRNAエレノア、リボソームタンパク質(RPL)、核内アクチンファミリータンパク質が重要なI/F因子であることが明らかとなった。エレノアは、核内で、転写活性に働く新規RNAクラウド構造体を形成する。RPLは、核小体の構造と機能、クロマチンの核内配置に重要で、血液疾患に関わる。核内アクチンタンパク質群は、遺伝子の転写、修復、リモデリングに機能することがわかってきた。今後の研究では、これら分子の作動機序と、細胞機能やクロマチン動態制御における役割を、分子生物・生化学的手法で明らかにする。2. 機械学習を用いた画像解析の発展応用:今までにsiRNAハイコンテントスクリーニングを用いて、核小体形成の構造形成と維持に関わるI/F因子群を網羅的に検索し、RPLを含む重要な新規I/F因子群を同定した。この過程で開発された、ハイコンテント画像解析法と機械学習パターン認識法が大変有用であったことから、本技術を、領域内で研究されているヒストンバリアント、ヒストン修飾、その他のクロマチン因子の核内分布の定量解析や、核輸送因子を含むI/F因子に変異を持つ細胞のクロマチン形態変化の定量解析などに応用展開する。3. 疾患、発生、分化におけるI/F因子の役割解析と特異的結合ペプチドの作製: I/F因子群の細胞機能を解析する。I/F因子のノックダウン・ノックアウト細胞樹立し、細胞表現型を明らかにする。さらにI/F因子に特異的に結合して機能阻害するペプチド化合物やヌクレオチドを作製し、細胞分化や細胞がん化に与える影響を解析し、I/F因子を標的にした創薬へ道筋をつける。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (47件) (うち国際学会 15件、 招待講演 12件) 図書 (1件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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