計画研究
細胞核内には、核小体、核スペックル、核骨格など様々な構造体が存在し、クロマチンはこれらに囲まれている。核内構造体は、遺伝子の転写、複製、損傷修復などの核内事象に関わる因子を豊富に含み、それらを周囲に供給する、RNA-タンパク質巨大複合体である。近年、これらの構造体の構築の鍵は、局所に特定タンパク質が濃縮することにより引き起こされる液体相分離とよばれる生物物理学的性質であることが解明されつつある。本研究では、これらの構造体の形成分子メカニズム、また、核内3次元空間でのクロマチン制御にどのように機能するか、疾患にどのように関わるかについて明らかにすることを目的としている。具体的には、核内構造体とクロマチンをつなぐ因子を、核-クロマチンインターフェース(I/F)因子と位置づけて、これらの分子機能解析を行う。核内最大の構造体である核小体に関して、その形成に関わるI/F因子を同定するために、siRNAライブラリーを用いて、減弱することによって核小体の形態が不全となる因子を15程度同定し、機械学習を用いた画像解析技術を駆使して、形態変化を定量し、プロファイリングを行った。その結果、共通した機能を持つタンパク質の減弱が共通した特徴的変化を誘導することを見出し、定量化・可視化した。特定のタンパク質の減弱に着目し、核小体の形成や液体相分離、クロマチン制御や遺伝子の核内配置、転写へどのように機能するかなどの分子解明と疾患との関連について検討している。またさらに、既知のI/F因子である核内アクチン関連タンパク質の機能解析をすすめている。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究成果に基づいて、動的クロマチンの維持や制御に関する研究を行った。核小体は、核内にありながら細胞質でタンパク質の翻訳にはたらくリボソーマルRNA(rRNA)の生合成の場で、rRNAをコードするrDNA遺伝子座の周囲に形成される。タンパク質合成は細胞の増殖に必須で、従って核小体は細胞周期、細胞ストレス応答、がんを含む疾患などに関わるがその機序は理解されていない。核小体の形成に関わる因子を同定するために、700種類以上の蛋白質を標的とするsiRNAライブラリーを用いてハイコンテントスクリーニングを行い、15の候補因子を同定した。機械学習を用いた画像解析であるウインチャームにより、それぞれのノックダウン細胞が示す核小体の定量的分類を行った。その結果、特定のリボソームタンパク質の減弱が共通して特徴的な形態をひきおこすこと、それが液体相分離の性質の欠落に基づく可能性があることなどをみいだした。また、特定されたリボソームタンパク質をコードする遺伝子の変異は、ダイアモンドブラックファン貧血症の責任因子であることもわかった。核小体の機能と形態にリボソームタンパク質が貢献する仕組みの解明に前進している。さらに、他のI/F因子の一つである核内アクチンファミリーに結合するbicycle peptideのスクリーニングを行い、Arp5およびArp8に結合するbicycle peptideを単離し、詳細解析を行った。これら研究の一部は新学術領域内での共同研究としてもすすめている。
今までに得られた研究成果をもとに、核内構造体がクロマチンの構造や機能にどのように関わっているかについて、解明をすすめる。核小体構造の形成に関わる候補因子15のうち、ノックダウンすることで共通して特徴的な細胞表現型を示す特定リボソームタンパク質に着目する。核小体の持つ液体相分離の性質にどのように貢献するか、また、リボソームタンパク質を減弱した細胞において、細胞の増殖、リボソームDNAの核内での配置、リボソームRNAの転写などにどのように影響するか、その影響がタンパク質合成能と独立したもので核小体形成に特化しているかどうかなど、細胞内での分子機能を検討する。さらに、ダイアモンドブラックファン貧血症にどのように関連するかなどの解明につとめる。研究の過程で得られた種々の核小体形態の画像ライブラリーを用いて、遺伝子機能と核内構造体の形態の関連を探り、さらなる画像解析技術を確立する。また、核アクチン関連タンパク質に特異的に結合するbicycle peptideを利用し、in vitroおよびin vivoの実験系を用いて機能を阻害し、それに伴う遺伝子機能や核内構造の変化を解析する。引き続き、必要な局面課題について、新学術領域内での共同研究としてすすめてゆく。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 8件、 招待講演 14件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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