研究領域 | グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態 |
研究課題/領域番号 |
25117004
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大木 研一 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50332622)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | アストロサイト / 神経細胞 / 同期活動 / カルシウム |
研究実績の概要 |
幼若期にIn vivoでアストロサイトのCa濃度を制御する系を開発し、その神経活動への影響を検証した。 in vivoでアストロサイトのカルシウム濃度を制御するために、DREADDを用いた系を開発した。AAV2/8とアストロサイト特異的なGFAPプロモーターを用いて、アストロサイトにhM3D(Gq) もしくはhM4D(Gi)を発現させた。CNOをマウスの腹腔に投与すると、前者はGqシグナルを活性化し、後者はGiシグナルを活性化する。神経細胞の同期活動が観察される生後10-14日にアストロサイト内のカルシウム濃度を制御するためには、生後直後にウイルスを感染させる必要がある。従って0日齢のマウスの一次視覚野にこれらのウイルスを感染させる方法を開発し、生後10-14日にこれらのDREADDが発現していることを確認した。さらに、同時に、AAV2/5を用いて、GfaABC1D - Lck-GCaMP6fをアストロサイトに導入し、2光子イメージングによりin vivoで観察したところ、CNO投与後に、アストロサイトの細胞内のカルシウム濃度が振動的に上昇することが確認された。これはhM3D(Gq) 、hM4D(Gi)をどちらでも観察され、両者ともアストロサイトにおいてはカルシウム活動を亢進させることがわかった。 アストロサイトのカルシウム濃度を亢進させたときに、神経細胞の同期活動に影響が見られるかどうかを検証するため、上記と同様にAAV2/8とGFAPプロモーターを用いてアストロサイトにhM3D(Gq) もしくはhM4D(Gi)を導入し、AAV2/1とhSynapsinプロモーターを用いて神経細胞にGCaMP6sを導入し、CNOを腹腔投与してアストロサイトのCa活動を亢進させたときに、神経細胞の同期活動を2光子イメージングで観察したところ、同期活動の頻度が亢進することが観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A) 過去3年の研究により、本研究に必要な技術が揃いつつある。In vivoでアストロサイトのCa imagingを行う系を開発し、アストロサイトのCa活動を計測した。OGB-1, AMとSR101を用いて、アストロサイトの細胞体でのCa活動を観察することが可能になったのみならず、GECIであるLck-GCaMP6fやYC-Nano50を用いて、アストロサイトの突起での活動を計測することが可能になった。さらに、In vivoでアストロサイトのCa濃度を制御する系を開発し、その神経活動への影響を検証した。BAPTA-AMを用いた方法に加え、DREADDによる制御が可能になり、アストロサイト特異的にCa濃度を制御することが可能になった。これらにより、アストロサイトのCa濃度が、神経細胞の同期活動に影響を与えることが明らかにされつつある。 (B) 過去3年の研究により、本研究のターゲットとすべき、同期活動が神経細胞の機能発達に果たす役割が明らかになった。仮説として、アストロサイトによって制御される発達期の同期活動が神経細胞の機能的成熟に重要であることを検証しようとしているが、この発達期の同期活動が神経細胞の機能発達のどの側面に重要であるかを明らかにした。さらに、この機能的発達を細胞レベルで継時的に追跡する系を開発した。 (C) 今後、(A), (B)を組み合わせて、仮説の検証に取り組む。(A)の系を用いてアストロサイトのCa濃度を制御したときに、(B)の神経細胞の機能発達にどのような影響が現れるかを検証する。技術開発と、観察系の開発に時間を要したが、それらがほぼ終了したので、これから目的の仮説の検証に入る。従って、おおむね計画は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のアストロサイトのカルシウム濃度をin vivoで制御する系と2光子カルシウムイメージングを用いて、以下の仮説を検証する。 仮説①発達期の大脳における同期活動の発生・伝播はアストロサイトによって制御されている。上記のようにDREADDを用いて、アストロサイトのカルシウム濃度を亢進させたときに、神経細胞の同期活動の頻度が亢進することが観察されているが、さらに確証を得るまで検証を続ける。また、アストロサイトには上記のようにLck-GCaMP6fまたはYC-Nano50を発現させ、神経細胞には尾藤班(東大)と共同してRCaMP2を導入し、発達期のマウス(P10-15)の大脳皮質の同期的なニューロン活動・アストロサイト活動を観察し、アストロサイトのカルシウム濃度の更新と神経細胞の同期活動の頻度が亢進の関係をより詳細に調べる。 仮説②発達期のアストロサイトによる同期活動の制御は、神経細胞の機能的成熟に重要である。発達期の神経細胞の同期活動は神経回路の機能的成熟に重要であると考えられるので、仮説①が正しければ、アストロサイトのカルシウム濃度を亢進もしくは抑制したときに、神経細胞の同期活動が障害され、神経回路の機能的成熟が障害されると予想される。とくに、開眼後に方位選択性のバイアスが均等化する(方位選択性が再構成される)過程は、活動依存的であることが示されているため、この過程はアストロサイトのカルシウム濃度を亢進または抑制したときに影響を受けると予想される。これを検証するため、in vivo 2光子カルシウムイメージングを用いて、神経細胞の視覚応答を計測し、神経細胞の方位選択性の変化を開眼後数日間にわたって観察し、開眼直後に見られる神経細胞の方位選択性の再構成に影響があるかどうかを調べる。
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