研究領域 | グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態 |
研究課題/領域番号 |
25117004
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大木 研一 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50332622)
|
研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
|
キーワード | アストロサイト / カルシウム / 2光子イメージング / 同期活動 / 大脳皮質 / 視覚野 |
研究実績の概要 |
マウスV1における神経細胞とアストロサイトの活動を同時に観測するために、赤色のカルシウム指示蛍光タンパクであるRCaMP2を神経細胞に、cyto-GCaMP6fをアストロサイトに、AAVを用いて発現させ、無麻酔下の成体マウスでin vivo二光子カルシウムイメージングを用いて両者のカルシウム活動を観測したところ、複数のアストロサイトで同期する活動が観測された。 視覚刺激を与えない時のアストロサイトと神経細胞の活動の関係を解析したところ、アストロサイトの同期活動がおこり始める数秒前に、神経細胞の同期的な大きな自発活動がみられることが見出された。従って、視覚刺激を与えていない時には、神経細胞の同期的な自発活動がアストロサイトの活動を亢進させることが示唆された。 次に、視覚刺激を与えると、神経細胞は視覚応答を示したが、アストロサイトについては、予想に反して、視覚刺激を与えない時と比べ、同期活動の回数が減少していた。視覚刺激を与えたときの神経細胞の活動を解析すると、視覚刺激によって神経細胞の活動は亢進しているが、その大きさは視覚刺激を与えていない時の神経細胞の同期的な自発活動より小さいことが見出された。 以上の結果から、アストロサイトの同期活動を惹起するには、神経細胞の大きな同期活動が必要であり、そのような大きな同期活動は、視覚刺激を与えていない時には自発活動として発生するが、視覚刺激を与えた時には、視覚応答は見られるものの、大きな同期活動の発生頻度はかえって減少し、逆説的にアストロサイトの活動が減少すると考えられた。 さらに、アストロサイトの同期活動の後半の期間では、神経細胞の活動性が減少する傾向にあることがわかった。神経細胞の大きな同期活動によって惹起されるアストロサイトの同期活動は、神経細胞の過活動を抑制するのに役立っている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に、神経細胞とアストロサイトの同期活動が相関していること、神経細胞はアストロサイトの活動を亢進させ、アストロサイトは神経細胞の活動を抑制していることが見出され、本研究課題のテーマである、神経細胞とアストロサイトの相関関係が明らかになりつつある。今後、その機構を解明していく予定であるが、既にDREADDによるアストロサイトの活動制御法は確立されているため、検証可能であると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度、視覚刺激を与えない時のアストロサイトの同期活動と神経細胞の同期的な自発活動との時間的関係を調べたところ、神経細胞の自発活動の後に、アストロサイトの同期活動が亢進しているか見出された。このことから、神経細胞の同期的な自発活動が、アストロサイトの同期活動を直接惹起している可能性もあるが、ノルアドレナリンの放出が、神経細胞とアストロサイトの両方の活動を亢進させていて、アストロサイトの反応のほうが遅れて現れている可能性もある。今後は、後者の可能性を検討するため、ノルアドレナリンの阻害剤を投与し、神経細胞とアストロサイトの活動の間に同様な時間的関係が見られるかどうか検証する。さらに、神経細胞の同期的な自発活動と、アストロサイトの同期活動との間に直接の因果関係があることを示すために、神経細胞にチャンネルロドプシンをAAVを用いて発現させ、神経細胞の集団を強制的に活動させたときに、アストロサイトの同期活動が惹起されるかどうかを検証する。 また前年度、アストロサイトの大きな同期活動が発生しているときに、神経細胞の活動性が減少する傾向が観察された。今後は、神経細胞の活動性の変化が見られた場合、それがアストロサイトから分泌されるATPなどのグリオトランスミッターによるのかどうかを検証するために、ATPの阻害剤を投与し、神経細胞の活動性の変化が見られなくなるかどうかを検証する。さらに、アストロサイとの同期的な活動と、神経細胞の活動性の変化の間に直接の因果関係があることを示すために、アストロサイトにAAVを用いてGq-DREADDを発現させ、アストロサイトに強制的に同期活動を誘導した時に、神経細胞の活動性の変化が見られるかどうかを検証する。
|