研究領域 | グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態 |
研究課題/領域番号 |
25117005
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
池中 一裕 生理学研究所, 分子生理研究系, 教授 (00144527)
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研究分担者 |
山崎 良彦 山形大学, 医学部, 准教授 (10361247)
田中 謙二 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (30329700)
清水 健史 生理学研究所, 分子生理研究系, 助教 (60398237)
小林 憲太 生理学研究所, 脳機能計測・支援センター, 准教授 (70315662)
畑中 伸彦 生理学研究所, 統合生理研究系, 助教 (80296053)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | グリア / 精神疾患 / 神経興奮制御 / 活動電位の伝導速度 |
研究実績の概要 |
(1)我々は、GFP標識した弱毒化狂犬病ウイルスを脳梁に注入することにより個々のOLの形態を詳細に標識することに成功した。DsRed2及びBFP標識したアデノ随伴ウイルス(AAV)によるサブタイプ依存的な神経軸索の標識と、前述の狂犬病ウイルスを合わせた3重標識法により、OL-神経軸索間の相互作用を詳細に解析できる新規の手法を確立した。この手法を生体マウスの異なった領域へ適応し、OLが局在する領域や、神経軸索のサブタイプに依存してミエリン形成様式が変化するかどうかを検証した。 (2)オリゴデンドロサイト(OL)特異的に光感受性チャネルを発現させたマウスを用い、光刺激によってOLを脱分極させたときの、海馬白板における活動電位の軸索伝導変化を検討した。複合活動電位の振幅を増大させる効果がみられたが、それには、早期に発現して短時間持続する効果と、遅延して発現し長時間持続する効果の、2つの性質の異なる位相がみられた。後者は3時間以上持続したが、新たなタンパク質合成は必要ではなかった。また、光感受性チャネルに加え、Na+-K+-Cl-共輸送体をOLに過剰発現させたマウスを作製し、同様の実験を行ったところ、短時間・長時間両方における促進効果が有意に増大していた。これらのことから、OL脱分極による軸索伝導促進効果には、細胞内容量調節機能の変化が関与していることが示唆された。 (3)神経軸索のランビエ絞輪に隣接するparanodal Junction(PJ)では、ミエリン-軸索間でjunctionを形成し、神経情報の伝達に機能している。PJの構成因子の一つであるNF155遺伝子の欠損によりマウスのPJを崩壊させた際、ニューロン側で発現変化する遺伝子をマイクロアレイ法により網羅的に解析した。その結果、発現が増減した遺伝子を多数同定し、それら遺伝子の発現がニューロンマーカーと非常に高い割合で共局在することを検出した。同定した遺伝子の機能解析を行うとともに、PJ崩壊によって引き起こされるマウス生体内での表現型の解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 新規に開発したOL-神経軸索間の相互作用解析法を生体マウス脳に適用した。この標識法を用いて、どの大脳皮質の領野から投射する神経軸索に対してOLが優先的に髄鞘形成を行っているかを解析し、一部のオリゴデンドロサイトが特定のニューロンに対して優先的に髄鞘を形成することを明らかにした。また、脳梁に局在するOLと、視神経の視交叉に局在するOLでは、ミエリン形成様式が異なることを見出した。 (2)研究期間では、以下の事項を主な研究計画としてあげている。1.OL脱分極による活動電位の伝導速度変化・活動電位同調作用の検討、2.OLによる軸索伝導変化の機序の検討、3.OL操作により軸索伝導が変化したときの出力先シナプスにおける可塑性誘導の変化、4.OL操作による軸索伝導変化の生理的意義のin vivoにおける検討。 1については、今年度までの研究により、光刺激によるOL脱分極によって誘導される軸索伝導の変化を見出しており、その成果を論文発表した。2については、Na+-K+-Cl-共輸送体をOLで過剰発現させたマウスを用いた実験をすでに終えており、1でみられた変化の機序に容量調節が関与することを確認した。さらに、軸索の部位によってOL脱分極による効果が異なる可能性を見出しており、OLによる軸索機能制御の新たな発見につながると考えられる。また、海馬CA1-海馬台シナプスにおいて、シナプス伝達・長期増強誘導についてデータが順調に集まってきている。これらのことから、研究進捗状況としては、順調に進んでいると考える。 (3) パラノード崩壊の神経作用:PJの崩壊によって発現変化するニューロン遺伝子を複数同定しており、現在、機能解析を行っている。また、NF155ノックダウンを誘導するアデノ随伴ウイルスを生体マウスの内包領域に注入し、PJの崩壊による運動系への影響を調べるために、マウス筋電図を計測する実験系をすでに確立した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)今年度は、前述のAAVと狂犬病ウイルスを合わせた3重標識法を用いて、OLがどのような機構で神経軸索を判別しているのかを明らかにするため、特に神経活動への依存性に着目する。口髭の除去により大脳皮質感覚野の活動を低下させたり、神経活動を抑制する内向き整流性カリウムチャネル(Kir2.1)および神経活動を誘導するオプトジェネティクスを大脳ニューロンに対して適用したりして、神経活動の変化に依存した個々のOLの形態変化や髄鞘形成様式を詳細に観察する (2)OL脱分極による軸索伝導促進効果が、細胞体からの距離によって異なる可能性が出てきた。このことについて、より詳細な検討を加えていく予定である。また、海馬CA1-海馬台錐体細胞シナプスにおける興奮性シナプス反応が、海馬台のニューロンの種類によって異なることがわかってきたので、これについての検討を行う。In vivoにおける研究では、今年度の実験で、マウスでの脳定位固定装置を用いての電気生理学的記録手法を確立しつつある。平成27年度以降、OL脱分極による軸索伝導変化の生理的意義の検討を行う予定である。 (3)皮質脊髄路のOL-神経軸索相互作用の欠失誘導実験を行う (マウス、サルにおける検討)。今年度はサルへの適用に先立って、まずマウスの内包にアデノ随伴ウイルスを注入し、マウス運動系における筋電図計測を行う。マウスにおいて良好かつ興味深い結果が得られたら、マカクサル内包におけるPJを破壊するために、NF155に対するsiRNA発現アデノ随伴ウイルスを作製する。
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