計画研究
1. 申請者らはこれまでに、オリゴデンドロサイト(OL)-ニューロン間の相互作用を生体マウスの中枢神経系で可視化する技術を確立している。オリゴデンドロサイトがどのような機構で神経軸索を判別しているのかを明らかにするため、神経活動依存性に着目している。マウスの口髯除去による大脳皮質感覚野の活動低下、および眼瞼縫合による視神経の活動低下を誘起する系を確立し、髄鞘形成が神経活動に依存するかどうかを調べた。2. 本年度より、OL脱分極による軸索伝導変化の生理的意義の検討を行っている。昨年度までと同様にOL特異的に光感受性チャネルを発現させたマウスを用い、OL操作により活動電位が同期したときの出力先(海馬台ニューロン)シナプスにおけるシナプス伝達の変化について検討した。海馬台ニューロンから興奮性シナプス反応を記録し光刺激後のシナプス反応の変化を調べたところ、海馬台ニューロンの発火パターンによって増大の程度が異なっていた。また、同じ海馬台内でも、近位(CA1に隣接)と遠位(前海馬台~傍海馬台に隣接)とで、光刺激によるシナプス反応の変化が異なっていた。これらの結果から、OL脱分極による出力先シナプスでの変化には場所優位性があり、さらに海馬台ニューロンの発火様式と密接に関連していることがわかった。すなわち、海馬出力を場所および細胞特異的に修飾している可能性が示唆された。3. 神経軸索のランビエ絞輪に隣接するParanodal Junction(PJ)では、ミエリン-軸索間でJunctionを形成し、神経情報の伝達に機能している。まずPJの構成因子の一つであるNF155に対するsiRNAを発現するアデノ随伴ウイルスをマウス脳内に注入し、マウス内包のPJを破壊することに成功した。また、それに伴ったマウス筋電図の変化を電気生理学的に検出することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
1. 新規に開発したOL-神経軸索間の相互作用解析法を生体マウス脳に適用し、大脳皮質の異なる領野から投射する神経軸索に対して、OLが選択的に髄鞘形成を行うことを明らかにしてきた。引き続いて、髄鞘形成が神経活動に依存するかどうかに着目し、マウスの口髯除去による大脳皮質感覚野の活動低下、および眼瞼縫合による視神経の活動低下の誘起では、髄鞘形成が変化しないことも明らかになってきている。これらの結果から、研究進捗状況としては、順調に進んでいると判断した。2. 主な研究事項は、1.OL脱分極による活動電位の伝導速度変化・活動電位同調作用の検討、2.OLによる軸索伝導変化の機序の検討、3.OL操作により軸索伝導が変化したときの出力先シナプスにおける可塑性誘導の変化、4.OL操作による軸索伝導変化の生理的意義のin vivoにおける検討である。1については、すでにその成果を論文発表した。2については、NKCC1をOLで過剰発現させたマウスを用いた実験から、軸索伝導促進効果の機序に容量調節が関与することを示した。3では、海馬CA1-海馬台シナプスにおいて、今年度までに細胞特異的にシナプス伝達を修飾するという結果を得ている。長期増強誘導についてもOL活性化により、誘導閾値が低下することをとらえつつある。4では、海馬および皮質に記録電極を刺入し、神経細胞のスパイク測定が可能になっている。これらのことから、研究進捗状況としては、順調に進んでいると考える。3. PJの崩壊によって発現変化するニューロン遺伝子を複数同定しており、初代培養神経細胞と生体マウスを用いて、その遺伝子の機能解析を行っている。また、NF155ノックダウンを誘導するアデノ随伴ウイルスを生体マウスの内包領域に注入し、実際にPJの崩壊を誘導できることと、その崩壊によりマウス筋電図に変化が起こることを確認できている。これらの結果、サルを使った実験を遂行するための予備実験が完了した。
1. 前述のAAVと狂犬病ウイルスを合わせた3重標識法を用いて、OLがどのような機構で神経軸索を判別しているのかを明らかにするため、特に神経活動への依存性に着目する。神経活動を抑制する内向き整流性カリウムチャネル(Kir2.1)をマウス大脳ニューロン特異的に発現させる系を確立し、神経活動の変化に依存した個々のオリゴデンドロサイトの形態変化や髄鞘形成様式を詳細に観察する。2. OL脱分極による軸索伝導促進の機能的意義の検討を引き続き行う。特に海馬CA1-海馬台シナプスにおいて、シナプス可塑性の誘導修飾についてさらにデータを集め、その詳細を調べていく。また、アーキロドプシンをOL特異的に発現させたマウスが使用可能になっているので、OLの活性化を抑制したときの軸索伝導変化、出力先シナプスにおける変化も検討していく予定である。In vivoにおける研究では、引き続き、マウスでの脳定位固定装置を用いての電気生理学的記録を行い、海馬-前頭前野間シナプス反応に対するOL脱分極の効果を検討していく予定である。生理的意義の検討をin vivoとスライス標本での実験とを合わせて多角的に行っていく。さらに、これまでに新しく発見した軸索伝導変化の場所優位性について、伝導速度を人為的に操作したりNKCC1の発現を操作したりすることによって、その性質の詳細を調べていく。3. マウス皮質脊髄路のオリゴデンドロサイト-軸索相互作用の欠失誘導実験が完了後、マカクサル内包におけるParanodal Junctionを破壊して、その効果を検証する計画である。今年度は、サルのNF155に対するsiRNA発現アデノ随伴ウイルスを作製し(小林)、それをサルの内包領域に注入してParanodal Junctionが破壊されるかどうかを確認し、その結果引き起こされる電気生理学的変化、および行動変化を解析する系を確立する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 3件、 査読あり 13件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 3件、 招待講演 8件)
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