計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究では解析対象として生後発達早期のマウス大脳皮質の感覚野と小脳皮質を扱い、技術的には二光子顕微鏡法と電気生理学的手法を用いたシナプスリモデリングの評価を行った。平成25年度には大脳皮質ではシナプスリモデリングの過程を二光子顕微鏡により解析し、発達に伴う変化を定量すると共にアストログリアとミクログリアの分化・発達との関連を解析した。小脳においてはミクログリアの機能を薬理学的に阻害する系を用いて登上線維のシナプス動態に与える影響を解析した。(1)大脳皮質:二光子顕微鏡による体性感覚野のイメージングにより、生後発達早期のシナプス動態が生後3週を境に急速に安定化されることがわかった。アストログリアとミクログリアの分化・成熟過程を同じ体性感覚野で評価した所、特にミクログリアの成熟は生後10日頃を境にして促進されること、アストログリアの形態学的な成熟はそれよりも遅れることが明らかとなった。生後2-3週のシナプスリモデリングが活発な時期にシナプスと相互作用を行うグリアとしてはミクログリアがより可能性が高い事が示唆された。また自閉症モデルマウスの解析により、複数の自閉症モデルマウスでシナプスリモデリングが亢進していることが明らかとなり、自閉症における神経回路障害の中核となる変化であることが示唆された。(2)小脳皮質:ミクログリアの活性化を阻害するミノサイクリンを生後発達期の動物に投与し、小脳の神経回路の生後発達過程を解析したところ、登上線維のシナプス刈り込みが障害されていることが分かった。逆にミクログリアを活性化するLPSを投与した場合には、シナプス刈り込みは正常レベルであった。この結果は、ミクログリアがある一定のレベル以上の活性化を維持することが、シナプス刈り込みに重要であることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度の研究により、大脳皮質、小脳皮質のいずれの部位においてもグリア細胞、特にミクログリアのシナプスリモデリングに与える影響に着目して研究を進めるべきであるという所見が得られており、これまでの研究の達成度はほぼ予定通りであると考えている。平成26年度は更にシナプスの形成・除去に対するミクログリアの役割という観点から個体レベルの研究を推進する。(1)大脳皮質:昨年度の解析により生後2-3週の発達中の体性感覚野でのシナプスの形成・除去に対するミクログリアの影響を解明することが重要であることがわかってきた。更に自閉症モデル動物において生後2-3週の大脳皮質におけるシナプスの形成・除去の亢進が見られることも明らかとなった。このようなシナプス動態における障害の原因としてグリア細胞の変化が存在する可能性を今後検討していく。平成25年度の研究により神経回路およびグリア細胞の両者について生後発達早期における動的な変化について重要な知見が得られており、今後両者の機能的な関連性を解析していく予定である。(2)小脳皮質:昨年度の解析から、ミクログリアの活性化がシナプスの生後発達期刈り込みに関与するという実験結果を得ることができた。また、本年度に予定しているミクログリアからのホールセル記録の準備のため、高坂先生よりIba1-GFPマウスの分与を受けた。繁殖が軌道に乗れば、電気生理学的な解析が開始できる状態にある。さらに、ミクログリア特異的な遺伝子組み換えの準備の為、候補因子のfloxマウスを購入した。
上記の様に、ほぼ計画通りに大脳皮質および小脳皮質での研究が進展している事から、平成26年度は、特に以下の2項目に重点を置いて研究を行う(1)大脳皮質:生後発達期(いわゆる臨界期)における選択的なシナプスの保持と除去の進行について、個体レベルの大脳皮質イメージングを行い基本的なデータの取得を平成25年度に終了している。その結果として得られた自閉症モデル動物におけるシナプス動態の亢進という所見について、グリア細胞との関連性を今年度は追及する。また大脳皮質の体性感覚野におけるアストログリアとミクログリアについて、これらの細胞の組織内分布と分化過程についてのデータ取得は前年度に引き続き行い、シナプス動態とその近傍におけるグリア細胞の形態の特徴を抽出する。更に本年度は電子顕微鏡によるシナプスとグリア細胞の位置関係についてデータ取得を開始し、臨界期におけるシナプス動態とグリア突起の接触の関係性について更に明確化する。(2)小脳皮質:シナプス刈り込みにおけるミクログリアの機能的な役割を明らかにする一環として、ミクログリアの膜電流記録を行う。生後発達期プルキンエ細胞の周辺に存在するミクログリアからホールセル記録を行い、ニューロン-グリア間の信号伝達の有無等を解析する。さらに刈り込みに関わるグリア側の機能分子を探索するため、ミクログリア特異的に遺伝子を欠損させる実験を行う予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (19件) (うち招待講演 8件)
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