計画研究
生後発達早期のマウス大脳皮質の感覚野と小脳皮質を扱い、技術的には二光子顕微鏡法と電気生理学的手法を用いたシナプスリモデリングの評価を行った。平成26年度には大脳皮質ではシナプスリモデリングの過程の二光子顕微鏡による評価の後に脳透明化手法を用いてグリア細胞との接触を画像化し、両者の関連性を解析し、また電子顕微鏡による立体再構築も行った。また小脳においては生後発達期ミクログリアの分布、形態変化の解析を行った。(1)大脳皮質:二光子顕微鏡による体性感覚野のイメージングと脳透明化手法であるCLARITYを組み合わせる事により、シナプスの動態とミクログリアの関係性について解析を進めた。まずミクログリアは一辺60ミクロンの立方体を一個の細胞が占有し、細胞体の近傍ではミクログリアの突起密度が高く、辺縁部に行く程密度が低い事を示した。次にミクログリアの細胞体の近傍と辺縁部に対応して存在するスパインについてその動態を二光子イメージングにより測定し、辺縁部に位置するスパインはミクログリアとの接触率が低いこと、ミクログリア細胞体近傍のスパインはその消失率が高いことが明らかになった。以上の結果は大脳皮質内がミクログリアの配置により二つの領域に区分され、両者でスパイン動態に異なった影響を及ぼしていることを示唆する。(2)小脳皮質:生後発達期シナプス刈り込みとミクログリアの関係を調べるため、ミクログリアの分布、形態の生後発達変化を解析した。ミクログリアは、シナプス刈り込み開始直前の生後5日齢においては白質に分布しており、活性化型の形状を呈しているが、刈り込みが開始される生後8日目には静止型に近い形をしたミクログリアが皮質内に広く分布し始め、生後21日齢にかけて小脳内で均等に分布するようになることが分かった。以上の結果は刈り込みと並行してミクログリアの小脳皮質への移行が進行することを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度までの研究により、大脳皮質、小脳皮質のいずれの部位においてもグリア細胞、特にミクログリアのシナプスリモデリングに与える影響に着目して研究が進められ、興味深いデータが得られつつある。これまでの研究の達成度はほぼ予定通りであると考えている。平成27年度は更にシナプスの形成・除去に対するミクログリアの役割という観点から個体レベルの研究および分子機構の解明について推進する。(1)大脳皮質:平成25、26年度の研究により、a)生後2-3週の体性感覚野でのシナプスの形成・除去に対するミクログリアの影響のイメージングによる評価、b) 複数の自閉症モデル動物における大脳皮質シナプスの形成・除去の亢進、c) 二光子顕微鏡によるシナプスの個体レベルでのイメージングと脳透明化手法CLARITYを組み合わせる事によるミクログリアとシナプスの関係性についての新しい評価方法の確立 という三つの項目について着実な成果が得られている。27年度は更にミクログリアのシナプスへの影響を制御する分子シグナルについての研究を実施する。(2)小脳皮質: 昨年度までの解析から、ミクログリアの活性化を抑制する薬剤を生後発達期のマウスに投与すると、登上線維-プルキンエ細胞シナプスの生後発達期シナプス刈り込みが障害されることが分かった。この結果は、ミクログリアがシナプス刈り込みに機能的に関わることを示唆する。また、解析の基盤となる小脳内でのミクログリアの分布・形態の生後発達変化の解析も順調に進んでおり、シナプス刈り込みと並行して大幅な変化が起こることが判明しつつある。また、よりミクログリア特異的な実験操作を行うため、ミクログリア特異的遺伝子組み換えマウスの作成も進めており、ほぼ計画通りに研究は進行していると考えている。
上記の様に、ほぼ計画通りに大脳皮質および小脳皮質での研究が進展している事から、平成27年度は、特に以下の2項目に重点を置いて研究を行う(1)大脳皮質:これまでに、生後発達期での選択的なシナプスの保持と除去の進行についての基本的データを取得し、自閉症モデル動物との比較も終了した。二光子顕微鏡によるシナプスの個体レベルでのイメージングと脳透明化手法CLARITYを組み合わせた実験については27年度も継続して実施し、データを集積してシナプス動態に及ぼすミクログリアの配置の影響を追求する。同様の実験をアストログリアについても行う事が可能かどうか条件を検討する。更に本年度は前年度から行っている電子顕微鏡によるグリア突起とシナプスの関係性についての網羅的解析を継続し、データ取得を完了させる予定である。特に生後早期とより成熟した時期での大脳皮質シナプスのグリアとの関係性を明確にすることを目指す。(2)小脳皮質:これまでの解析で使用した薬剤投与実験は作用の選択性に問題があるため、本年度はよりミクログリアに特異的な解析を予定している。ミクログリアの皮質への移行に関与することが知られている因子をミクログリア選択的にノックアウトしたマウスを作成し、皮質移行の障害の確認と刈り込みへの影響を電気生理学的、形態学的に詳細に解析する。このマウスにおいてアストログリア、オリゴデンドロサイトなどに対する影響も解析し、ミクログリアの欠損が他のグリアアセンブリに与える影響も解析する予定である。また、前年度より継続しているミクログリアの形態学的な生後発達変化の解析も引き続き進める予定である。
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