計画研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究では、脳発達過程における神経回路・グリア相関ダイナミズム及びグリアアセンブリ動態の分子的基礎、並びに、その相関の破綻が、自閉症スペクトラム等の精神神経疾患の病態生理に与る仕組みを、主に脳機能イメージング等によるin vivo脳内分子動態解析技術を適用しながら探究することを目的とする。本年度では、ヒトでの脳発達臨界期と脳発達障害病態における脳機能イメージングの他、動物の臨界期及び脳発達障害病態モデルにて神経回路・グリア相関及びグリアアセンブリ機能分子のin vivo脳内動態解析を中心に研究を推進した。動物での脳発達障害に掛かる神経回路・グリア相関の破綻の分子基盤解析では、胎仔期母胎感染による統合失調症病態モデルラットにて、ミクログリアの病的活性化を[11C]PK11195によるPETイメージングで確認したことを踏まえ、同ラット脳出の遺伝子発現プロファイルをDNAマイクロアレイにより網羅的に解析した。その結果、病態脳でCD200の発現が著明に低減していることを見出し、ミクログリアにおけるCD200Rを介した情報伝達系の阻害が脳内炎症反応の惹起を来すこと、また、CD200Rが統合失調症等の脳発達障害治療の分子標的となり得ることを明らかにした。ヒトでの脳機能イメージングに関しては、MRI装置をバージョンアップし、より高精度な脳機能画像の取得を可能とし、DTIやfMRIおよび我々が開発した拡散強調fMRIの高速化・高精度化について検証を行った。また、統合失調症等の精神疾患患者におけるfMRI・DTIデータを引き続き取得している。特に、トラクトグラフィによる白質線維の解析は、全脳の構造的結合を一括で計算するコネクトーム的アプローチの手法を確立させ、予備的ながらも統合失調症におけるコネクトーム変化を捉えることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
脳発達障害、精神神経疾患の病態生理に神経回路・グリア相関の破綻が働く仕組みの分子遺伝学研究では、統合失調症病態モデルラットにおける脳遺伝子発現プロファイルの網羅的解析の結果、神経回路障害がミクログリアの病的活性化を来す素因としてのCD200の発現減少を見出した。CD200はミクログリアのCD200Rに結合し、その活性化を抑制するので、CD200-CD200R系は、神経回路障害による神経回路・グリア相関の破綻の分子原理をなす脳発達障害、精神神経疾患の新たな治療標的として着目される。これまでに本研究者らは、統合失調症、自閉症等の脳発達障害患者脳にてPETを用いミクログリアの病的活性化を確認しており、それら障害の病態生理とグリア障害を関連付ける分子病変の発見は、当初の見込み以上の成果であり、今後のCD200-CD200R系を治療標的とした精神神経疾患の創薬研究、脳内CD200-CD200R系活性化のin vivoイメージング技術の創出等の進展を予見させる。一方、ヒト脳機能イメージングに関しては、開始当初にMRI装置が施設の水漏れ事故により交換を余儀なくされ、平成26年2月になりようやく新しいMRI装置での運用が可能となった。そのため、MRIを用いたデータ収集に関してはやや遅れている。しかし、装置のバージョンアップにより、より高精度な脳機能画像の取得が可能となり、fMRIの高速撮像やトラクトグラフィの高精度化など、当初の見込みより良質なデータ取得が可能となった。また、トラクトグラフィによる白質線維の解析は、全脳の構造的結合を一括で計算するコネクトーム的アプローチの手法を確立させ、予備的ながらも統合失調症におけるコネクトーム変化を捉えることに成功するなど計画以上に進展できている。上記より、本研究課題は概ね順調に進展していると判断した。
現時点で、本研究はおおむね順調に進展しているため、平成26年度も基本的には当初の研究計画に従い推進していく。即ち、ヒトでの脳発達臨界期と脳発達障害病態とにおける脳機能イメージングの他、動物の臨界期及び脳発達障害病態モデルにて神経回路・グリア相関及びグリアアセンブリ機能分子のin vivo脳内動態解析を行う。また、独自のMRIステルス技術を用いて健常児及び自閉症児でfMRIによる脳機能画像を取得し、脳発達障害の病態生理に与る病変神経回路を特定する。併せて、トラクトグラフィで当該神経回路の白質線維に掛かる形態学的解析を行い、病態での神経回路・オリゴデンドロサイト相関破綻を評価する。一方、アスペルガー症候群等の広汎性発達障害患者で、[11C]PK11195、及び、[18F]FDGによるPETイメージング、fMRIでの脳機能イメージングを行い、ミクログリア賦活と病態特異的脳領野活動低下を関連付ける。これらの研究から、 脳発達過程における神経回路の機能的成熟に、ニューロン・グリア相関、及び、それに掛かるグリアアセンブリが機能する仕組みを探究するに当たり、脳機能イメージングにより初めてin vivoで、その相関の解剖学的裏付けをなすことをねらう。さらに、齧歯類とマカクザル等の高等霊長類で脳発達過程を辿りながら、脳内グリア動態を種々のin vivoイメージング技術で解析する。即ち、神経回路・ミクログリア相関変遷を、 [11C]PK11195と[18F]FDGによるPETイメージング、神経線維・髄鞘相関に掛かる形態学的解析を拡散テンソル・イメージング(DTI)、NG2-GFPトランスジェニックマウスでの神経線維・NG2細胞相関ダイナミズムの形態学的解析を、多光子励起レーザ走査型顕微鏡による蛍光イメージングにてリアルタイムに解析する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 6件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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