計画研究
本研究では、脳発達過程における神経回路・グリア相関ダイナミズム及びグリアアセンブリ動態の分子的基礎、並びに、その相関の破綻が、自閉症スペクトラム等の精神神経疾患の病態生理に与る仕組みを、主に脳機能イメージング等によるin vivo脳内分子動態解析技術を適用しながら探究することを目的とする。本年度では、ヒトでの脳発達臨界期と脳発達障害病態における脳機能イメージングの他、動物で臨界期及び脳発達障害病態モデルにて神経回路・グリア相関及びグリアアセンブリ機能分子のin vivo脳内動態解析を中心に研究を推進した。ヒトでの脳機能イメージングに関しては、従来の3T-MRI装置でのデータ取得に加え、より高精度な脳機能画像の取得を可能とする7T-MRI装置を用いた健常者のデータ取得を本格的に開始した。神経回路・グリア相関の破綻が示唆される病態として、統合失調症等の精神疾患患者におけるfMRI・DTIデータを引き続き取得するとともに、統合失調症における異種性を画像データからデータ駆動アプローチにより層別化する新規技術を開発した。また、神経膠腫の脳画像データから機械学習を用いて局所の悪性度を判別する手法をさらに高精度化することに成功した。さらに、MRIの構造画像の画質向上や画像処理法の進歩により近年実用化されつつあるミエリンマップとよばれる新たなグリア関連可視化技術を導入することができた。一方、脳内ニューロン・ミクログリア相関の破綻は、ミクログリアの活性化による炎症反応の惹起を招くので、ここでは統合失調症などの精神神経疾患病態脳にてニューロンの変性に伴うADAM10の活性化が、ミクログリアのCX3CR1を賦活し炎症反応を生起することに着目し、ADAM10の活性化を初めにNMRで、ついでMRIで画像化するためのMRI造影剤を創製した。28年度は、それにより、炎症反応の惹起に先立つADAM10の活性化を生培養細胞培養系で探知することができた。
2: おおむね順調に進展している
ヒト脳機能イメージングに関しては、3T-MRI装置を用いた統合失調症などの精神神経疾患におけるデータ収集は順調に進展している。また、7T-MRI装置でのデータ収集についても健常者で順調に取得できている。その上、MRIを用いた神経膠腫の新規悪性度判別手法をさらに発展させることに成功し、神経膠腫を用いたグリアアセンブリの探求をより深めることができた。また、全脳レベルのミエリン情報をMRIで可視化するミエリンマップ技術も導入するなど、当初の見込みよりも研究の質が向上した。また、全脳の構造的・機能的結合を網羅的に解析するコネクトーム解析についても、効果的なノイズ除去アルゴリズム技術を導入することで、さらなる高精度化を図ることができるようになるなど、計画としては順調に進展できている。さらに、本研究では、これまでに統合失調症などの精神神経疾患発症の初段階に生起する病態プロテアーゼADAM10の活性化を、paramagnetic relaxationの原理によりIn-cell NMR、及び、MRIでリアルタイムに画像化することが可能なMRI機能プローブを創出し、ADAM10の活性化に伴う脳内ミクログリアの炎症性の活性化を、病態早期に捉えることに成功した。これら成果は、今後の病態モデル動物、ヒト患者における統合失調症などの病態プロテアーゼ活性化を伴う精神神経疾患のin vivo超早期診断に応用することが可能である。上記に鑑み、計画はおおむね順調に進展しているものと判断した。
現時点で、本研究はおおむね順調に進展しているため、平成29年度も基本的には当初の研究計画に基づいて推進していく。従来の3T-MRIに加え、比較対象としての健常者における7T-MRIデータ取得を継続するとともに、統合失調症などの精神疾患患者においても従来の3T-MRIに加えて7T-MRIでもデータ取得を行っていく。また、トラクトグラフィで当該神経回路の白質線維に掛かるより精密な形態学的解析についても3T-MRIおよび7T-MRIの両者で行い、病態での神経回路・オリゴデンドロサイト相関変容を評価する。さらに、MRIの構造画像の画質向上や画像処理法の進歩により近年実用化されつつあるミエリンマップといった新たなグリア関連可視化技術を健常者および精神疾患患者に適応することで、より詳細なニューロン・グリアの評価法を実現していく。また、自閉症、注意欠陥・多動性障害などの発達障害患者にて、[11C]Me-QAA (α7ニコチン受容体トレーサー)、[11C]PK11195、[18F]FDGによるPETイメージングを行い、認知機能、脳内ミクログリア動態、神経活動を関連付ける。それにより、脳発達過程におけるニューロン・グリア相関ダイナミズムをin vivoで解析し、発達障害の治療標的の探索に役立てることをねらいとする。本年度では、さらに、28年度までにMRI造影剤にてオリゴデンドロサイト前駆細胞(NG2細胞)の分化成熟に与るγセクレターゼ、及び、ミクログリアの炎症性活性化に掛かるCX3CR1の賦活に与るADAM10の分子動態を、それぞれIn-cell NMRにて生細胞で描出し得たことを受け、当該プローブをRVG(狂犬病ウィルス糖タンパク質)で標識し、それら分子の脳内動態をin vivoでMRIにより画像化することをねらう。一方で、ADAM10の分子障害が病態生理に絡む統合失調症の病態モデルマウスにて、ニューロン・グリア相関の破綻の神経病理の詳細を、同マウスの脳組織をレーザーマイクロダイセクション法などで解析する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 図書 (1件)
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