研究領域 | グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態 |
研究課題/領域番号 |
25117013
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 和秀 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (80124379)
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研究分担者 |
津田 誠 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (40373394) [辞退]
齊藤 秀俊 九州大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (90444794)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | ミクログリア / 神経障害性疼痛 / 発達障害 / シナプスリモデリング / in vivoイメージング |
研究実績の概要 |
シナプスリモデリングに重要とされるミクログリアの形態変化、突起運動などを観察可能な遺伝子改変マウス(CX3CR1-GFP)と、神経細胞の樹状突起上のスパイン構造を観察可能な遺伝子改変マウス(Thy1-YFPH)の両表現型を持つ遺伝子改変マウスとミクログリアの成熟、活性化応答、運動機能の発現に関与するIRF8遺伝子のノックアウトマウスを交配し、神経障害性疼痛モデルマウスにおいて、体性感覚野の同一個体の同一のミクログリアにつき神経傷害前の2~3日間と神経傷害後の7日間、継続的に観察したところ、神経傷害前後に関わらず、ミクログリアの移動能が大きく亢進していることを明らかにした。疼痛病態そのものはノックアウト動物において抑制されていた。IRF8ノックアウトマウスの社会性に関し、3チャンバーテストを用いて評価したところ、一部のパラメーターに有意な変化を見出しており、ミクログリアの成熟異常が脳の高次機能に影響を及ぼしていることが示唆された。そこで時期特異的・ミクログリア特異的にIRF8をノックダウンするコンディショナルノックアウトマウス(floxed-IRF8, CX3CR1-creER)を作成し、コンベンショナルIRF8ノックアウトマウスで見られるミクログリアの突起形成異常と同様の形態変化が、出生後5週目以降の成熟したミクログリアのIRF8をノックダウンすることによっても再現することを見出した。 一方で、2光子励起顕微鏡を用いて脊髄実質の神経細胞の細胞内カルシウム動態をイメージングしたところ、脊髄後角表層の神経細胞が侵害刺激に対して応答し、前部帯状回の電気刺激によって侵害刺激に対する応答性が増強されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミクログリア特異的に遺伝子改変を行う新たなツールとしてCX3CR1-creERマウスとミクログリアの機能に関連する遺伝子(IRF8、Mafb)のFloxedマウスを用いた実験を開始しており。Mafbに関連した実験では予想通り、神経障害性疼痛の抑制が観察された。タモキシフェン投与によるコンディショナルIRF8ノックアウトマウスにおいても、過去の結果と一致して、神経障害性疼痛が抑制されている。これまでIRF8はミクログリアの胎生期における分化・成熟過程に関わる転写因子と認識されており、コンベンショナルなIRF8ノックアウトマウスでみられる細胞突起形成異常は胎生期のミクログリアの分化異常が成熟動物まで引き継がれたものと考えていたが、また、成熟後のミクログリアにおけるIRF8の発現は低レベルであり、何らかの活性化時にその発現が再度誘導されると考えられたが、5,6週齢以降にIRF8をノックアウトすることによっても形態変化が引き起こされることが明らかになり、ミクログリアの正常時に機能維持にもIRF8が関与するという新規の概念への手がかりを得たと考えられる。 作成したIRF8コンディショナルノックアウトマウスは、タモキシフェンの投与により時期特異的なミクログリアの細胞形態異常を誘導することが可能であることから、発達・成長の特定の段階を選択してミクログリアの機能異常を誘導する手段を手に入れたと考えられる。今後この実験系を用いて生体の発達段階・成熟段階におけるミクログリアの意義を検討し、脳の高次機能への影響を観察する。
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今後の研究の推進方策 |
ミクログリアの活性化を担う転写因子としてIRF8は神経障害性疼痛に関与するが、ミクログリアの正常な分化に関わる転写因子としての役割も持っていることが証明されている。そこでIRF8コンディショナルノックアウトマウスをミクログリアの発達不全マウスとして用い、この動物の表現型を精査することによってミクログリア、神経細胞、その他のグリアとの間に存在する機能連関を見出す。さらにミクログリアと神経細胞を可視化できるマウス(CX3CR1-EGFPとThy1-EYFPの表現型)を組み合わせ、スパインレベルの解像度で、各種イメージングを行う(岡部班との共同研究)。特にノックアウトマウスで観察されたミクログリアの異常な形態と細胞運動が神経回路に与える影響をin vivoイメージング又は固定標本を用いて解析する。 脊髄イメージング手法の開発過程で見出した、前部帯状回皮質刺激後に脊髄神経細胞の侵害刺激への応答性が変化する現象については、脊髄アストロサイトの侵害刺激に対する応答との相関を検討し、その痛覚回路への関与をIP3R2ノックアウトマウスや脊髄細胞腫選択的な遺伝子導入法を用いて詳細に検討する。前部帯状回等の皮質神経細胞に関しては精神病態と疼痛病態への関連性に焦点を絞り、社会的敗北ストレスモデル動物でのうつ様症状の出現とミクログリア・アストロサイトの活性化との相関を検討し、疼痛病態への関与を検討する。
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