研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
25118002
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡辺 茂 慶應義塾大学, 文学部(三田), 名誉教授 (30051907)
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研究分担者 |
伊澤 栄一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (10433731)
藤田 和生 京都大学, 文学研究科, 教授 (80183101)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 比較認知 / 情動 / 種内コミュニケーション / 進化 / 社会性 |
研究実績の概要 |
渡辺は、マウスの共感性について検討した。(1)不公平嫌悪の行動指標とSIH(stress-induced hyperthermia)の同時計測:サーモグラフの特性を生かし行動とSIHの同時計測を行った結果、社会的不公平はSIHを生じさせるが、行動選好も引き起こした。後者は情報価の強化効果によると考えられる。(2)救援行動:国際共同研究先であるライプニッツ研究所でデグーでの救援行動を実験検討した。渡辺が既に所属機関で実施したマウス実験と同様に、明白な救援行動はみられなかった。このことはげっ歯類の救援行動が限定的であることを示唆する。(3)共通経験の強化効果:累進投与法(progressive dosing)による用量-反応曲線の迅速測定法を開発し、メタアンフェタミン強化効果の社会的促進の用量-反応曲線をえた結果、社会的促進はpotencyの促進であることが分かった。(4)向社会行動:国際共同研究先であるナンテール大学でのモルモット、カピパラ実験に等価な実験をマウスで行ったところ、個体差が大きく、個体数を追加し実験継続している。(5)共感のおよぶ範囲:マウスの表情画像のオペラント弁別を行い、これに成功した。さらに多種の表情の選好実験をマウスとヒトで行い、現在解析中である。 藤田は、フサオマキザルとイヌの共感性を分析し、また、ネコの第三者評価や嫉みを明らかにした。トンケアンマカクの第三者評価について、ストラスブール霊長類研究所のMeunier博士と共同研究を継続している。試験中のイヌの視線計測技術を愛媛大の十河博士と共に確立しつつある。 伊澤は、カラスの共感性について調べた。霊長類で報告されている向社会行動課題装置を鳥用に開発し、ウィーン大学をはじめ海外3機関において、カラス科複数種の比較研究を進めた。優劣形成場面における他個体の情動表出(優位シグナル)に対する感受性がオスとメスで異なるという情動感受性の性差を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個別の実験操作内容については計画からの変更や修正が一部あったものの、検討事項についてはおおむね計画通りに進んでいる。げっ歯類の救援行動の限定性や共感の及ぶ範囲などの新たな示唆や、海外機関との共同研究による種間比較研究についても結果が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
マウスが援助行動を示さないという点は継続検討し、ラットの先行研究との違いをもたらす要因を明らかにする。社会的促進効果を、新規開発した累進用量投与法を用いてpotencyとefficacyの機構分離を試みる。デグーの父性に着目した協力行動についても海外共同研究として継続実施する。ハトの援助行動について、2連オペラント箱を用い鳥類に関する実証を広げる。フサオマキザル、リスザル、イヌ、ネコの第三者評価や嫉み及び向社会性に関する実験をおこなう。昨年度から開始したマーモセットの第三者評価に関する実験を、フランス・ストラスブール霊長類研究所のMeunier博士との共同研究で継続する。 カラスの援助行動の複数種間比較研究を統合し、向社会性の進化生態因を明らかにする。また、他者の情動表出に対する反応の性差を明らかにし、共感性の心理基盤の性差を検討する。これまでの成果を種間比較することで最終年度に向け、共感性の系統発生に関する総括的理解を行う。
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