研究領域 | 共感性の進化・神経基盤 |
研究課題/領域番号 |
25118003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 壽一 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30172894)
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研究分担者 |
橋弥 和秀 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (20324593)
齋藤 慈子 武蔵野大学, 教育学部, 講師 (00415572)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 共感 / 発達 / 自閉スペクトラム症 |
研究実績の概要 |
本研究班は、定型・非定型発達児を対象に、共感性に関わる諸能力の発現および相互作用を明らかにし、共感性の発達過程を統合的に解明している。情動伝染に関しては、ASD・TD児でのデータ収集を終了し、"中立→笑顔"、"中立→怒り顔"のモーフィング画像についてはASD・TD児者両群共通に生起するが、表情静止画に対する反応は、時系列上の特性が異なることを、ワイヤレス式筋電計を用いた実験から明らかにした。また、共感性に関わる特性として、他者の経験に対する「因果応報」的知覚についての新たな研究を実施し、成人については(日本人学生・来日留学生間の比較から)背景文化に関わらず「善い行為」には「幸運な結末」/「悪しき行為」には「不幸な結末」が選択される一方で、5歳児(日本人)では同様な傾向は見出せないことが明らかになった(公募の中尾班との共同研究)。「共感」と表裏一体で検討する必要がある「心の理論」についても考察をまとめ、書籍として公刊した。親の共感性と養育態度の関係も調査した。母親の他者の思いやりにつながる共感性の側面は、養育のポジティブな側面(権威を示し子どもの行為に対して必要な制限を加えつつも、基本的に子どもの自立を支援するような子育てスタイルである「指導的子育てスタイル」)と関係を持つ一方、他者の情動を受け冷静さを失いやすい側面は、ネガティブな養育(感情的に身体的・言語的暴力を子どもに向けるような「権威主義的な子育てスタイル」)と関係することがわかった。これは、共感性の高さが一概によい養育につながるわけではないことを示す。これまでの調査からは、親の養育態度と子どもの認知機能の発達関連について、親の指導的子育てスタイルは、子どもの実行機能、社会性の基礎となる能力(他者の視点に立って物事をとらえる力)と関係することが明らかになっていることを合わせ、共感性の世代間伝播の一端が示されたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究班の目的は、上記研究実績の概要でも述べた通りであるが、今年度についても、被験者および保護者の積極的な参加協力をいただき、定型発達乳幼児研究、自閉症スペクトラム児者研究ともに、安定した研究基盤のもと順調に進展している。研究の進行に伴って研究課題内で新たなテーマも生まれ、それらの研究も着実に研究成果として着実しつつある。これまでの定型発達乳児に加え、自閉スペクトラム症児を対象にした表情伝染、定型発達乳児における他者理解、親の共感性と養育態度の関連、親の養育態度と子どもの共感の発達、イヌ・オオカミおよびネコにおける対ヒト社会的認知に関する一定の成果を出すことができた。また、次年度の計画における準備状況も下記のとおり順調である。また、追加配分予算にて購入した脳波計測システムの導入により、一個体内のみではなく、二者間の脳波の同期性に関するデータ取得が可能となった。これによって二者間インタラクション時の脳波同時計測を行い、神経活動の同期性に関するデータ取得が行えることとなった。これらの成果より、目的の達成度はおおむね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに得られた研究成果の取りまとめを引き続き進め、研究成果として発信する。「因果応報」的知覚については、成人での安定的な発現の発達的起源を特定するために、学童児での調査を開始するとともに、文化比較(カナダを予定)、ASD児での調査の可能性について積極的に検討し、準備が整い次第実施する。また、「We」という語彙使用の発達研究については昨年度までに新たな実験デザインを確定できたので、これを開始する。こうして得られる実証的なデータをもとに、コミュニケーションやこころを理解することを目指す諸科学における共感の理論的立ち位置について検討をおこなうことも発達班の射程のひとつであり、この点については、海外の研究者の招聘等を積極的に実施し、研究交流・実質的な議論の中でオリジナルな知見を発信したい。 親の共感性と養育態度の関係について、母親だけでなく父親についてもデータを取得し、それぞれの共感性と養育態度の関係ならびに夫婦間で関係性がみられるかについても検討する。 追加予算で購入した脳波計測システムを駆使し、二者間インタラクション時の脳波同時計測を試み、神経活動の同期性に関するデータ取得、およびその解析を行い、共感性の神経基盤の解明につなげたい。 また、系統発生班との連携による、哺乳類における対ヒト社会的認知に関する研究も継続していく。
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