計画研究
1)情動伝染神経回路と分子の同定:これまでヒトで情動伝染に関わるとされている脳部位(前頭前野、帯状回、島皮質)に加え、他者の痛みを観察したマウスでのすくみ行動に関わる脳部位(扁桃体、中脳灰白質、視床下部、嗅内皮質)における神経細胞活性マーカのc-fosの発現を網羅的に解析した。その結果、前帯状皮質と扁桃体の中心核においてすくみ行動との相関が得られた。またすくみ行動中枢である中脳灰白質でもすくみ行動との有意な相関を得た。これらの結果から、マウスにおいてもヒトと同様に前帯状皮質が情動伝染に関与すること、さらにその下流に位置する扁桃体中心核と中脳灰白質を経由することが示された。2)発達期オキシトシンの情動伝染機能に及ぼす影響の解析:母子分離した早期離乳モデルマウスを用い、共感性の発達変化を調べた。Langford(Science, 2006)に従い、腹痛情動伝染を実施した。その結果、早期離乳マウスでは痛み行動の伝染が減弱し、さらに他者の存在による社会的緩衝作用が起こりにくいことが明らかとなった。3)オキシトシンの共感性に果たす役割の系統発生的役割の解明:オキシトシンが共感性に果たす役割の系統発生的役割について、ヒト-イヌ間の身体性同期化と情動伝染をモデルに解析した。イヌにおけるリアルタイムの情動評価系の確立を目指し、電極の作成、Wavelet方式の解析を実施した(駒井班と連携)。その結果、イヌでもイベントに応じた情動を定量することの成功した。またイヌの運動性同調の実験を実施し、オキシトシンが関わる飼い主に対するアタッチメント行動と飼い主との同調性の関連を調べた。その結果、アタッチメントが高いイヌは飼い主とも行動同調が起きやすいことがわかった。オキシトシンの効果は、共感性の発動における個体間の関係性に作用する可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では3つの課題を設定し、研究を開始した。概ね予定通りの成果を得ることができた。1)に関しては2つの刺激により活性化した神経細胞の同定を目指していたが、使用予定の遺伝子改変マウスでは脳部位においては、ドキシサイクリンの抑制効果が得られず、ターゲットとする細胞を可視化できなかった。米国でマウスの改良が進み、これら問題を生じないマウスが作成され、急遽導入した。これで当初の計画を実施することが可能となった。2)に関しては、オキシトシンの障害マウスの作成は実施されたものの、共感性の評価を実施中であり、次年度には結果が出ると期待される。3)に関しては、オキシトシンの進化的役割を明らかにする目的で、ヒトーイヌの絆形成の重要性が見出された。今後は絆の実証研究と、それに関わる遺伝的背景の解明に挑む。
本研究では次年度以降、以下3つの課題における下記の目標を設定した。1)に関しては活性化した神経細胞の可視化マウスを導入できた。このマウスを効率的に用いるため、情動伝染を引き起こす社会刺激の同定に挑む。特にこれまで知られてきた視覚情報に加え、嗅覚系の関与を見出しつつあり、この点を明らかにする。刺激が同定できれば、それに関わる神経回路の解明、さらにはその細胞で機能する分子同定につながる。2)に関しては、オキシトシンの障害マウスにおける共感性の評価を急ぐ。さらに1)で明らかにした情動伝染回路における遺伝子発現の変化を網羅的に解析し、発達期の帯状回オキシトシン障害によって生じる脳内分子同定にチャレンジする。3)に関しては、オキシトシンの進化的役割を明らかにする目的で、ヒトーイヌの絆形成の重要性が見出された。今後はヒトーイヌ間のオキシトシンと絆の実証研究と、それに関わる遺伝的背景の解明に挑む。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (17件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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