計画研究
本研究の目的は,フットショックを用いた野生種マウス(MSM)における情動伝染様式の解析である.昨年度は尿によって、情動伝染が起こることを見出したが、それに加えて、視覚情報の効果を調べた。ショックを受けているマウスの動画を再生すると、観察個体でもフリージングが起こった。しかし、動画をモザイク化した場合、その効果が消失し、マウスが動画を手がかりに恐怖を感じていることが明らかとなった。情動伝染のシグナルとして嗅覚情報と視覚情報が重要であることが示唆された.同じ実験系を用いたC57BL/6の恐怖情動伝染モデルでは、他者の痛みを受容したマウスの前帯状皮質からすくみ行動の中枢であるPAGへの投射回路があることを実証した。現在、その回路が情動伝染に果たす機能的役割を調査中である。最後に、ヒトと犬という他種間での情動伝染を調べた。行動解析の結果からは、ストレス条件時に飼い主に生じた何らかの変化はイヌをひきつけるものであった。心拍変動解析は、条件間で比較した場合に飼い主・イヌともに違いが認められず、また微細な時系列で解析をしてもペア毎に結果が異なり、一貫した傾向は観察されなかった。しかしながら、ストレス条件下においてのみイヌ-飼い主の心拍変動の相関係数と年齢や飼育期間との間に有意な正の相関が見られたことから、飼い主が何らかの情動変化を示す場合には情動伝染が成立する可能性が示唆された。また、その成立のためにはイヌの年齢や飼育期間といった諸因子が影響を及ぼしていることが考えられた。今回、実験中にイヌが飼い主を注視する時間といった諸因子との間には統計的に有意な相関を見出すことはできなかったが、傾向はみられたためこれらの諸因子も情動伝染に影響を及ぼしているのかもしれない。
1: 当初の計画以上に進展している
本課題の目的は共感性を司る分子調節機構の解明である。分子が外的に働く機能をMSMを用いたユニークな系で明らかにしつつある。また脳内では帯状回が関与することを明らかにしてきた。現在、この部位に存在し、痛みを伝達するに際に重要な役割を担うTRPV1に着目して、その機能を明らかにしつつある。また自閉症の原因遺伝子であるTBX1を欠損したマウスでも共感性の有無を調べており、一定の成果が見えてきた。ヒトと犬の共感性にはこれまで着目してきたオキシトシンの効果が期待された。オキシトシンはイヌからヒトへの視線、見つめ合いに関与することを見出していたが、情動伝染の際にも見つめることが必要な要件であることがわかった。進捗の多い1年であった。
MSMモデルでは、ストレス尿と動画が手がかりになり、観察個体でもフリージングすることが明らかになったため、その全容のための対照実験を行う。C57BL/6モデル:前帯状皮質からPAGへの直接投射経路の可視化、さらにはその回路における神経興奮とすくみ行動の関係を明らかにする。これまでの神経活性指標としてのC-fosに加え、ファイバフォトメトリを導入し、リアルタイムでの神経活性をモニタする。またこの回路の人為的操作による情動伝染の変化を明らかにする。その他、上記TRVP1やTBX1の情動伝染における機能を実証する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
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