研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
25119002
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北澤 茂 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00251231)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | 時間順序判断 / 動き投影仮説 / 腕交差効果 / サッケード |
研究実績の概要 |
「こころの時間」の特徴は前後が入れ替わることにある。例えば、左手と右手に加えた信号の順序は手を交差するだけで入れ替わる。また、急速な眼球運動(サッケード)の直前には2つの視覚刺激の順序判断が逆転する。我々はこれらの錯覚を説明するために、「空間的な位置」の情報と、「動き」の情報を統合して時間順序が構成される、という「動き投影仮説」を提案した。本研究はこの仮説の検証を通じて、時間順序を作りだす神経メカニズムを解明することを目的としている。本年度は以下の成果を挙げた。 1.サッケード直前に時間順序が逆転するメカニズムの解明:選好方向と反選好方向に加えて直交方向の動きを加えてMT野とMST野からニューロン活動を記録した。「動き逆相関法」を適用した結果、MST野には、サッケードの開始に先行して反選好方向刺激に対する応答が真に増加する細胞がある一方、MT野には存在しないことが明らかになった。サッケード直前の時間順序逆転にはMST野以降の高次な「動き」を表現する領域の選好方向の逆転が関与している可能性を示す成果である。 2.情報「統合」のメカニズムは何か?: 16名の被験者から脳磁界計測を行い、独立成分分析を適用した。その結果、α波には後頭葉を中心とする後頭成分と、両半球の位相が反転している逆位相成分の2つが存在することを明らかにした。さらに、腕交差に伴う時間順序判断の逆転は、逆位相成分の位相と有意に相関することを明らかにした。α波に逆位相成分があることを初めて発見し、その逆位相成分が両手からの信号の時間的な統合に関与することを示す成果である。 3.時間順序判断に大脳基底核が関与しているかどうかを明らかにするために、パーキンソン病患者と健常対象群を比較した。その結果、時間順序判断には大脳基底核とドパミン系は関与していないことを示す結果が得られた(Nishikawa ら, 2015)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動き投影仮説の予想を支持する結果が、動き逆相関法を用いたサルの研究でも、脳磁界計測を行ったヒトの研究でも得られている。また、臨床との共同研究で、時間長知覚には重要である大脳基底核が、時間順序判断には有意な寄与をしていないことを示す結果を得ることに成功した。脳の時間地図描出に向けた重要な知見と考えている。以上の理由からおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
サルを用いた研究: MST野よりもさらに高次の領域から記録するにあたって、「動き」に応答するニューロンが必ずしも効率的に発見できていない。サルに対してfMRI法を適用することによって、事前に「動き」に応答する領域の範囲を明らかにして対応することを検討している。
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