研究実績の概要 |
本研究の第一の目的は、申請者らが過去の成果に基づいて提唱した「動き投影仮説」を検証することを通じて、時間順序を作りだす神経メカニズムを解明することである。第二の目的は、脳に時間地図が存在するかどうかを非侵襲脳活動計測法を用いて検討することである。本年度は下記の研究成果を挙げた。 1. 「動き投影仮説」で仮定する「空間」と「動き」情報の統合は、α波帯域の同期活動によって実現されるという仮説を検証した。本項目は左右の手の触覚刺激の時間順序判断課題に対して行った。α波が主に5個の独立した成分に分解できること、さらに、側頭後頭溝周囲に強い信号源を持つ「側頭後頭成分」の位相と相関して腕交差に伴う時間順序判断の逆転が生じることを明らかにしてきた。本年度はこの成果を専門誌に発表した(Takahashi and Kitazawa, 2017, J Neurosci)。さらに、200Hzと210Hzの交流刺激が作る10Hzのうなりを用いて側頭後頭溝周囲をターゲットとしたα帯域の操作を行い、時間順序判断の逆転確率が変化することを示すデータを得ることに成功した。 2. 脳に時間地図はあるのか? 時間は物理的には1次元だが、言語学の時制の理論では、3種類の時間、speech time, event time, reference timeを区別する。従って、時制を自在に操るヒトの脳にはこれら3次元の時間の地図が存在する可能性がある。本年度は日本語話者18名に加えて、英語話者15名、中国語話者18名のfMRIの事象関連活動を収集した。計51名の被験者のデータに基づいて、楔前部から帯状回後部の領域に、現在と未来を表現する領域が存在することを示した。
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