計画研究
1.恐怖反応は、外界の危険から身を守るために重要な生理的な防御反応である。しかしながら、過剰な恐怖反応は様々な精神疾患を引き起こす。例えば、PTSD の患者は恐怖を適切に制御することが難しく、過剰な恐怖が生活の質の低下につながる場合も多い。PTSDの心理社会的なリスクファクターの一つとして、過去のトラウマ経験が知られている。しかしながら、過去の恐怖経験が新規の恐怖記憶に与える影響についてはほとんど知られていない。本研究では、過去のトラウマ経験が恐怖の増強をもたらす動物モデルを確立し、そのメカニズムの一端を明らかとした。本研究は、PTSDへのレジリアンスを強化し、PTSD発症を回避するための薬理学的アプローチの発展に結びつくことが期待される。2.網膜で受け取られた視覚情報は、視床を介して大脳皮質の入り口である一次視覚皮質(V1)へ送られる。この情報伝達はわずか数百ミリ秒以内で達成されることが知られており、V1細胞は視覚情報に対して短い潜時で応答することが可能である。さらに、V1細胞は、視床から上昇してくる入力(視床-皮質経路)以外にも、V1の同一層内、または他皮質領域から豊富な入力を受けている(皮質-皮質経路)。このため、V1細胞は複雑な応答性を有する。しかし、V1細胞のこうした応答がどのように生じ、また時間をまたいで視覚情報を統合しているのかは議論が続いている。本研究では、マウスV1細胞が短いフラッシュ刺激に対して、従来知られている初期応答のほかに、潜時の長い遅延性応答を生じることを新たに発見した。この遅延性応答は次に続く視覚情報に対する応答性を調節し、視覚機能にまで影響を与えることが示唆された。本研究は、マウス V1が単なる受動的な視覚経路ではなく、複雑な応答性を示すことで積極的に視覚情報処理を行っていること示唆する知見である。
2: おおむね順調に進展している
当研究は「過去班」のプロジェクトの一環として、記憶に焦点を当てている。当該年度では、過去の記憶が現在にどう影響をあたえるかについて、日レベル、秒レベルの「記憶」の研究が身を結んだ。これらの記憶の生じる場所が、海馬もしくは視床であり、時間単位が異なると、異なった脳部位が活動することがわかり、「こころの時間地図」という本領域へ大きく貢献する知見が得られた。
次年度は、1.忘れた過去を思い出す回路、2.他者の過去の時間を活用する「共感」、について、メゾスコピックな視点からアプローチを試みる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 9件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
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