研究領域 | スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
25120002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
富樫 かおり 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90135484)
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研究分担者 |
藤本 晃司 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10580110)
岡田 知久 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30321607)
山本 憲 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60525567)
伏見 育崇 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90639014)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | スパースモデリング / 高次元データ駆動科学 / 圧縮センシング / MRI / 画像再構成 |
研究実績の概要 |
基盤となる計算資源の整備と要素技術の拡充:B01-2 班の協力を得て、20ノードのhpcクラスタを構築、再構成速度を大幅に上昇させるとともに、ストレージ容量を200TBまで増強、大容量の医用画像データの扱いを改善した。再構成アルゴリズムではNESTA法とは異なる定式化のもとにL1最小化を行うアルゴリズムであるFISTA法を実装し、さらにひとつの基底にしか対応できないというFISTA法の弱点を克服した拡張版であるFCSA法を実装した。疎収集パターンの最適化に向けて、可変密度ポワソン法による収集マスク作成を可能とした。 【課題1】脳卒中:L1, Wavelet , TVの基底毎に収集率と再構成画像の関係を検討した。さらに脳動脈瘤症例を対象にして、全3基底の組み合わせ、収集率、収集パターン、NESTA再構成条件の組み合わせが異なる全24,696種類の再構成条件を比較検討し、至適条件では12.5%データ収集でも診断上問題はないことを示した。またFISTA法の検討では、従来の高速撮像法であるPI法と比較して、さらに半分のデータでも同等以上の画像が得られた。ただし基底核穿通動脈では、データ収集率を50%に低減しただけでも描出が低下することが判明、撮像法の改良を継続して実施した。また客観的な画像評価を行う上で、従来の指標を用いた再構成パラメータ最適化では、必ずしも視覚評価と一致するものが選ばれないことを示し、あらたな評価法を提案した。 【課題2】心筋梗塞:健常者データ収集して画像再構成パラメータの最適化を実施、同率の収集率ではPI法に比してNESTA法を用いた方が画質に優れることを示した。さらにFCSA法でも検討、心筋梗塞の成因となる冠動脈狭窄をより短時間で撮像可能な手法の研究・開発を進めている。 【課題3】ガンの微小環境:これに近づくよう、低収集率でも腹部での血管を描出可能なことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基盤となる計算資源と要素技術は、クラスタPCの装備とFCSA法ならびに可変密度ポワソン法による収集マスク作成の実装により、現時点で必要な整備は完了、今後適宜改修・改善を行うのみである。研究進捗により直面した大きな課題である再構成画像の画質を客観的に評価する手法と、それを視覚評価とほぼ一致させる新たな手法が見つかった。再構成画質を左右する要因のひとつである収集パターンについても理解と経験が深まっている。 課題1:脳卒中については、健常者での検討をほぼ終了し、脳卒中の一因である脳出血の原因となる動脈瘤についても12.5%という低収集でも臨床上十分な描出可能なことが分かってきた。脳梗塞の原因となる血管狭窄についても現在データ収集を進めており、予備的な結果では動脈瘤に近い低収集率でも比較的良好な描出可能であり、順調に成果が得られている。しかし主幹動脈と比較して非常に細い基底核穿通枝を低収集率で描出することは困難であったため、撮像法を改良することで低収集率でも描出可能な条件が分かってきており、低収集率での再構成の検討を始めている。 課題2:従来法(PI法)に比してNESTA法による再構成画像の方が画質に優れることが判り、さらにFCSA法でも改善に向けた研究を進めている。 課題3:ガン発生率の高い躯幹部でも低収集率での血管画像の再構成が可能なことを現段階で既に示しており、このまま微小環境への展開が期待できる。 これらの研究成果は医用画像における圧縮センシングを世界的にリードしている国際MR医学会2015年大会へ提出され、本研究グループの演題採択率は7/8 (88%)と研究内容が高く評価されたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの計画どおり、臨床応用をめざした様々な検討を進めるとともに、必要に応じて適宜計算資源および要素技術の改良・充実を図る。個別課題に関しては以下の通りである。 【課題1】脳卒中:低収集データからの脳主幹動脈再構成については、H27年度に動脈狭窄例の検討結果をまとめることで動脈瘤と合わせて、初期評価を完了する予定である。これに対してより細い深部灰白質穿通動脈では、描出を改善する撮像法を確立するとともに、H27年度に当大学に導入される7テスラMRI装置での撮像結果と対比することで収集率低下・撮像高速化の条件における性能評価を行う。さらにその臨床的な意義を明確化するとともに、スパース・モデリングの臨床上の有用性を検討するという視点からは、加齢や高血圧,糖尿病などによる変化の検討を進める。 【課題2】心筋梗塞:心拍動シネMR画像で開発した再構成手法や【課題1】で開発した新たな撮像法を適用することで、従来法よりも良好な画像が得られているが、FCSA法などの活用による一層の画質改善を検討するとともに、現状では10分以上に及ぶことがある冠動脈データ収集の短時間化を目指す。その技術を現在冠動脈画像診断の標準となっている造影CTAの結果と比較して評価を行い、一層の改善を行う指標とする。 【課題3】ガンの微小環境:課題1・課題2の成果を活用して、血流を中心とした腫瘍微小環境を観察する手法を研究する。さらに拡散強調画像や脳機能画像で使用されているBOLD(Blood Oxygen Level Dependent)コントラストをベースとした撮像法など、ガンの微小環境を観察する他の手法における研究を進める。
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