研究領域 | スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
25120003
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
木川 隆則 独立行政法人理化学研究所, 生命システム研究センター, チームリーダー (20270598)
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研究分担者 |
池谷 鉄兵 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (30457840)
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研究期間 (年度) |
2013-06-28 – 2018-03-31
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キーワード | スパースモデリング / NMR / 圧縮センシング / スペクトル解析 / ベイズ統計 |
研究実績の概要 |
核磁気共鳴法(NMR)は,非侵襲的に分子構造動態を探る最も強力で汎用性の高い計測手法の一つである.近年の装置技術の著しい進展により,タンパク質等の複雑な生命分子の計測が可能となったが,計測データ量が多く計測時間が長く,得られるスペクトルは複雑でデータ解析は煩雑である.さらに解析データ数の増大により,立体構造を得るための計算も煩雑で時間を要し,広域な構造空間の探索が困難で局所解へトラップされ最適解の導出が困難となっていることが問題となっていた. 本研究では,NMRデータや生命分子の構造情報が有するスパース性に着目して,スパースモデリングの導入によりNMR解析の複雑さ・煩雑さに起因する上記の問題を解決することにより,特に複雑な生命分子系を対象にしたNMR計測やデータ解析の高速高精度化の実現し、当該分野の飛躍的発展を目指しているが,平成25年度においては,以下の二課題に関して研究を進めた. 【課題1】NMR計測の高速・高精度化においては,NMR信号をスパースに計測し,スパースモデリングによる信号処理によりデータ補間をおこない,計測時間の大幅短縮とスペクトル品質の改善を目指して,信号をスパース化するアルゴリズム,欠損データ補完に用いる情報表現やアルゴリズムの開発,改良を進める計画であり,平成25年度は,再構成アルゴリズムの検討をおこなった. 【課題2】データ解析の高速・高精度化においては,NMRデータ解析の高速化・高精度化を目指して,生命分子の複雑な多次元NMRスペクトルのピーク分離精度をスパースモデリングの適用により向上させ,スペクトル解析の質の向上をさせることを計画しており,平成25年度は,二次元スペクトルを対象にアルゴリズムの検討・改良に取り組んだ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【課題1】NMR計測の高速・高精度化において,スパースにNMR信号を計測しスパースモデリングによりデータ補間をおこないスペクトルを再構成する手法は,複雑な生命分子系を対象にしたNMR計測において特に有効である.この再構成アルゴリズムに関して,二次元スペクトルを対象にアルゴリズムの検討・改良に取り組んだ.アルゴリズムとしては,圧縮センシングやapproximate message passing (AMP) 法を主として検討した.これらは大自由度班と連携して進めた.いずれの方法を用いても,再構成時のパラメータを最適化することにより,高品質の再構成スペクトルが得られることがわかった.また,より高品質の再構成を目指して,事前知識の活用に関する検討に着手した. 【課題2】データ解析の高速・高精度化においては,複雑な生命分子系のスペクトルにおいて頻出する重複シグナルを分離し,ノイズの影響を抑えた正確なシグナル強度見積りが可能であることから,スペクトル解析の質の向上が期待できる2次元ガウス関数へのピークフィットによるシグナル分離を検討した.2次元スペクトルの解析を対象としてアルゴリズムの検討・改良に取り組んだ結果,当該手法が重複シグナルの定量的解析に有効であることが示された.ただし,効率良い解析のためには明示的に初期値を設定する必要があり,局所解に収束してしまう可能性があり,得られた解の妥当性が評価しにくいという課題が顕在化した.
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今後の研究の推進方策 |
【課題1】NMR計測の高速・高精度化においては,平成26年度は,引き続きアルゴリズムの検討をおこない性能評価を進めるとともに,大自由度班と連携してより性能の高い新たな手法の適用検討を開始する.事前知識の活用による関する再構成スペクトルの品質向上に関する検討も,引き続き進めていく.さらに,タンパク質のNMR計測において不可欠な安定同位体標識法のうち,複雑な系において特に有効なアミノ酸選択標識法に関して,検討を進めていく.【課題2】データ解析の高速・高精度化においては,研究の過程で顕在化したシグナル分離の課題を解決することを目指して,スパースモデリング班と連携してベイジアンスペクトル分解手法を活用することの検討に着手する. また,【課題3】立体構造計算の高速・高精度化として,立体構造計算の高速・高精度化の実現を目指した課題に着手する.当該課題では,パラメータ設定や広域な構造空間の探索が困難なことにより,最適解の導出が困難な生命分子の立体構造計算に関して,ベイズモデルに基づくデータ解析から客観・定量的なパラメータ設定をおこない,レプリカ交換モンテカルロ法により構造空間を広域探索することにより,局所解に陥りにくく最適解導出が可能な構造計算アルゴリズムを構築する. 【課題1】,【課題2】,【課題3】を推進することにより,スパースモデリング(SpM)の導入によりNMR解析の複雑さ・煩雑さに起因する問題を解決して,生命分子のNMR計測やデータ解析の高速・高精度化を実現する.
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