研究領域 | 古代アメリカの比較文明論 |
研究課題/領域番号 |
26101002
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
米延 仁志 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (20274277)
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研究分担者 |
大山 幹成 東北大学, 学術資源研究公開センター, 助教 (00361064)
五反田 克也 千葉商科大学, 政策情報学部, 教授 (40453469)
那須 浩郎 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教 (60390704)
北場 育子 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 准教授 (60631710)
原口 強 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70372852)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 古代アメリカ文明 / 年輪年代学 / 古環境科学 / 高精度編年 / 環境史復元 |
研究実績の概要 |
本研究では樹木年輪と湖沼堆積物を用いて,中米メソアメリカと南米アンデスの古代文明の高精度編年体系を確立することを目的としている。 H27年度は(調査)中米・グアテマラ・マヤ低地南部の湖沼調査,考古植物学調査,湖沼及び遺跡周辺の地形調査を実施した。(分析)グアテマラ・ペテシュバトゥン(GPB15)湖堆積物の年縞解析,理化学分析を実施した。ナスカ台地周辺で採取した現生木,遺跡出土木の木材組織,年輪構造の分析を実施した。また,計画研究A02が実施した航空測量による地形データの解析を実施した。(主な成果)(1)グアテマラ湖沼調査では,年度前半に国内湖沼(福井県水月湖等)で試料の採取法と採取直後の試料処理法について綿密に検討を重ね,湖底最表面(2015年)までの完全な表層堆積物試料の採取に成功した。これはH26年度に採取した長い堆積物試料と現代の環境データを連結させるものであり,現代の正確な観測データと,古環境データとの定量的な対比を可能とするものである。一方,調査国では昨年は大統領選挙のため政情が極めて不安定であり,ラスポサス湖の調査について近隣住民と交渉を重ねたが合意が得られず,H28年度に改めて調査の交渉を開始することとした。 (2)堆積物の分析では,英国・アベリストウィス大学との国際共同研究でXRF法による高時間分解の元素分析を実施し,このデータを用いた年縞データ解析に着手した。また年代測定試料を多数発見した。測定結果はH28年6月までに得られる。 (3)ペルー・ナスカ台地で収集した試料の木材分析を進め,組織・年輪構造を明らかにした。また,出土材のC-14年代測定を実施した。 (4)航空測量データの解析では3次元地形モデルと赤色立体図を作成した。その結果,森林植生の被覆を除去した高精度の地形情報が得られ,400平方kmの広範囲で新たな遺跡を探索するための情報の提供が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査:中米で対象としている一つの湖沼でやや遅れがあるが,全体的にはおおむね順調に進展している。グアテマラ・ペテシュバトゥン湖では非常に良好な堆積物試料が得られている。セイバル等,マヤ文明の遺跡の考古植物調査ではペルー・ナスカ台地では,周辺の植生や現生木の生育環境調査を複数回,実施し,当該地域での年輪年代学研究に必要な基礎的な情報はすでに十分得ている。また,遺跡出土木についても計画研究A03から試料の提供を受けて,分析を継続している。 試料分析:中米湖沼での調査を延期したため,本計画研究で必要となる分析機器(高精度連続年輪自動撮像装置,同位体分析用薄片作成装置)の開発を前倒しで完成させた。ペルーで対象とする樹種は組織構造が複雑なため,年輪年代学的研究では最も分析が難しいものの一つであり,これらの新規装置開発によって,初めてナスカ出土木の分析が可能となった。湖沼堆積物では,蛍光X線法(μXRF)高時間分解の元素分析データが完備した。年輪年代法を応用して,堆積物の縞状葉理の対比にも成功した。また,C-14年代測定試料も多数得られ,年代測定を実施中である。計画研究A02が実施した航空測量のデータ解析では,赤色立体図が,植生密度の高いセイバル遺跡周辺でも,広範囲の新規遺跡探査に有用な情報が提供出ることが明らかとなった。 成果発表:本計画研究の成果の本格的な発表はH28年度から予定されているが,関連する成果を国際誌等で発表した。また,中学,高等学校などでの出前授業や一般向け公開講座でも成果の普及に務めた。
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今後の研究の推進方策 |
報告で述べたとおり,調査と試料の分析は概ね順調に進展している。グアテマラで採取した湖沼年縞堆積物試料では,世界でトップクラスの高時間分解元素分析データが得られている。極めて大きなデータであり,解析に時間を要するが,比較対象の文明史での重要な時代に着目して集中的に分析を進める等,効果的成果を生み出す工夫をしていく。また花粉分析等,人類史との対比,定量的自然史復元のいずれにも重要な分析を実施する。今年度以降は研究計画期間の後半にあたり,試料の分析に重点をおいて研究を実施する予定である。その際,英国,オランダ等の研究者との共同研究を予定している。環境文明史研究の国際化をより一層進め,査読有,国際誌での共著論文の発表を行う。若手研究者に関してはH28年度に日米先端科学シンポジウムでの成果発表を計画している。 調査に関してはペルー,ナスカ台地での試料点数の充実が必要である。計画研究A03と共同で考古遺物試料の探査と収集を今後も継続する。グアテマラでは上記「実績の概要」で述べたとおり調査を一旦,延期せざるを得なかった。そのため,2015年度の調査のあと,再度,現地に赴き,現地コミュニティーへの説明と話し合いの機会を持った。その時点で湖沼調査にはおおむね好意的な反応を得たが,地方行政機関と当該地域の安定化を慎重に見極めつつ,現地での成果の広報や学校教育への協力,調査協力員の雇用等を通じて,再度,粘り強く調査の再開ができるように努力していくつもりである。
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