研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
26102003
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
忍久保 洋 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50281100)
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研究分担者 |
Shin Jiyoung 名古屋大学, 工学研究科(国際), 特任教授 (30622295)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 反芳香族 / π電子系 / 非局在化 / 積層 / ポルフィリン / 芳香族性 |
研究実績の概要 |
反芳香族分子であるノルコロールを安定化するためにノルコロールの周辺部にベンゼン環を縮環させることを試みた。通常、不安定な反芳香族分子をベンゼン環でπ拡張すると分子が安定化されるとともに、その反芳香族性は失われてしまうことが知られている。ノルコロールの場合にはベンゼン環によるπ拡張がその電子物性にどのような効果をもたらすのか興味が持たれた。ビシクロ環をもつ前駆体の逆Diels-Alder反応を鍵段階として用いる合成ルートにより、実際にベンゾノルコロールを合成することに成功した。しかし、予期に反してベンゾノルコロールはもともとのノルコロールよりも不安定化しており、空気中の酸素と速やかに反応することが分かった。さらに、ベンゾノルコロールはノルコロールよりもさらに強い反芳香族性をもつというこれまでの反芳香族化合物に見られない特徴を持つことを見いだした。また、ベンゾノルコロールは反芳香族性だけでなく一重項ビラジカル性を同時に発現するという興味深い特性をもつことを見いだした。電気化学測定・分光測定・分子軌道計算による解析の結果、ベンゾノルコロールはノルコロールに比べても非常に狭いHOMO-LUMO gapを持つことが明らかになった。強い反芳香族性とビラジカル性はその非常に狭いHOMO-LUMO gapに由来すると考えている。 一方、これまでの研究からノルコロールを連結したノルコロール二量体において2つのノルコロールが積層した構造をとり、この状態でその反芳香族性が大幅に弱まることを見いだしていた。今年度は、さらに2つのノルコロールが対面して積層したシクロファン型ノルコロール二量体を分子内ー分子間カップリング反応を用いることにより合成することに成功した。得られたシクロファン型ノルコロール二量体の構造は単結晶X線構造解析により明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ノルコロールをベンゼン環によりπ拡張することによって、反芳香族化合物がビラジカル性を獲得するというこれまでにない新しい発見があった。これまで4nπ電子系がビラジカル性を示す場合には、弱い反芳香族性しか示さなかった。強い反芳香族化合物とビラジカル性を同時に実現した分子は極めて珍しく、反芳香族化合物の新たな性質を明らかにするものとして注目される。
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今後の研究の推進方策 |
反芳香族化合物の積層による三次元芳香族性の発現について、実験的および理論的な解析を進める。特に、対面型ノルコロールシクロファンの合成を達成したので、この分子が示す芳香族性について明らかにすることによって、積層反芳香族化合物が示す三次元芳香族性の本質に迫りたい。
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