本研究では、開殻pi電子系分子を自在に創製する「自在開殻pi造形」の確立とその過程で合成される新奇開殻pi電子系の機能開拓を目的としている。 1.閉殻構造をもつ分子群を足場とした開殻piユニット直接連結型金属錯体による開殻pi造形:開殻piユニットであるニトロニルニトロキシド(NN) が直接配位した各種金属錯体に関して、ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンに二つの金-NN を導入したジラジカル種の合成に成功した。 2. NN 直接連結型金属錯体を鍵とした芳香環への開殻piユニット直接導入による開殻pi造形:これまでに本研究者が開発した金-NN 錯体を用いたカップリング反応により、これまでに調製が不可能だった、NN-置換オリゴチオフェンやNN-置換フェノチアジンの短段階合成に成功した。これらを用いてマルチラジカルpiシステムの創製が可能になり、磁気的相互作用に関する新たな知見が得られた。 3. マルチラジカルpiシステムの創製:開殻pi電子系を種々組み合わせることで、複数の電子スピンをもつ安定マルチラジカルpiシステムの創製を検討した。前述の NN-置換オリゴチオフェンを1電子酸化することによって得られるジラジカルカチオン種では溶液中における pi-ダイマー形成を利用して分子ワイヤーの解析することに成功した。また、NN-置換フェノチアジンを1電子酸化することによって得られるジラジカルカチオンは大きな正の交換相互作用をもつ基底三重項であることがわかった。さらに、高い安定性をもつのと同時に、1000 nm を超える長波長領域に T-T 吸収に由来すると考えられる吸収帯が存在することを実験的に明らかにした。
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