研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
26102006
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
斎藤 雅一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80291293)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | ヘテラスマネン / 異方性 / 強誘電性 / 共有結合有機構造体 / トリベンゾコロネン / アニオン性フェロセン |
研究実績の概要 |
1)ヘテラスマネンを鍵骨格とした機能探索:ヘテロ原子官能基の分極によりπ平面の上下に異方性を有するヘテラスマネンを金表面上に吸着させたところ、金の仕事関数を変化させることに成功した。これはπ平面の上下に生じた異方性に起因した双極子モーメントが金属表面で生じたことによるものである。つまり、本分子を用いた金属表面の修飾が金属の性質を変化させることに有効であることを示すことに成功した。様々な長鎖アルキル基を有するトリチアスマネンを合成し、その熱的挙動を調べたところ、液晶性の発現を見いだした。加えて、これらの化合物の電場応答性を調べたところ、化合物が液晶性を示す示さないに関わらず強誘電性を示し、低分子系による非液晶性固体が強誘電体となる極めて希な現象を見いだした。ボウル型分子を基本骨格とした共有結合有機構造体(COF)の合成に初めて成功し、その構造がボウル型基本骨格に由来するジグザグ型であることを示唆する結果を得た。 2)ヘテラスマネンを利用したπ電子系の拡張:パラジウム触媒共存下、トリフェニレンの湾内炭素がスズ官能基で架橋されたトリスタンナスマネンとオルトジハロベンゼンの反応を検討したところ、二重クロスカップリング反応が進行し、トリベンゾコロネン誘導体の合成に成功した。 3)ジアニオン性π配位子を用いた遷移金属錯体の合成とその物性探索:合成した新規なアニオン性フェロセンの電子状態を解明するべく、メスバウワー測定および理論計算を行ったところ、鉄の電子状態は、フェロセンの電子状態を説明する古典的な原子価結合の考え方では説明できない特異な状態であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
π共役平面の垂直方向に異方性をもつ分子を金属表面の修飾に利用したところ、分子の金属基板に対する配向を表向き/裏向きにすることで、金属の仕事関数を大きく、または小さくすることに成功した。この結果は、単一の化学種で仕事関数の大小を制御した初めての例である。また、ボウル型分子を基本骨格とした共有結合有機構造体(COF)では、その層構造がジグザグ型を有していることが示唆され、従来までの平面集積構造とは異なる結果を得た。長鎖アルキル基を有するトリチアスマネンの強誘電性に関しては、当初想定していなかった全く予想外の結果であり、本領域における分野を跨いだ共同研究によって初めて見いだされた成果である。 また、合成した新規なアニオン性フェロセンの電子状態が古典的な原子価結合の考え方では説明できない特異な状態であることが示唆された結果も、当初の予測を超える興味深い成果であった。 従って、当初の計画以上に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
長鎖アルキル基を有するトリチアスマネンが強誘電性を示すことが示唆されたので、ほかのヘテロ原子官能基を導入した場合の効果を調べる。 トリスタンナスマネンとオルトジハロベンゼンを用いた二重クロスカップリング反応を様々なオルトジハロベンゼンに適用し、合成したトリベンゾコロネン誘導体からボウル型分子への変換を目指す。 アニオン性フェロセンの電子状態を解明するべく、メスバウワー測定の結果を再現する理論計算を行い、その計算を基にして鉄の電子状態を解明する。
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