計画研究
昨年度は、熱力学的に安定ならせん高次構造を有する超分子ポリマーを与えうるバルビツール酸モノマー分子の合成に取り組み、π電子系の一部をベンゼン環からナフタレン環へと拡張するという構造改変によって、熱力学的に安定ならせん高次構造の構築が可能になった。しかも興味深いことに、AFMとTEMによる詳細な解析によって、熱力学的に安定ならせん高次構造は超分子重合過程において直接形成されるわけではなく、一旦ミスフォールドした準安定な超分子ポリマーが速度論的に形成されることが明らかになった。ミスフォールドした超分子ポリマーのフォールディングは溶液中で「日」の単位で進むため、任意の時間経過でサンプル溶液を採取し、AFM観察を行うことで、フォールディング過程における中間構造を可視化することに成功した。このように人工のナノ繊維構造体が、秩序だったらせん構造へと時間によりフォールディングする例はこれまでに報告がなく、タンパク質フォールディング機構の解明にも寄与しうる極めて稀な例である。さらに、中間状態の熱力学的安定性を温度可変吸収スペクトルにより精査したところ、構造と良い相関を示す熱力学的パラメータ(エンタルピー値)が得られ、フォールディングメカニズムの解明に大きく寄与した。また、A03班の足立らの研究グループと協働することで、小角X線散乱によるフォールディング過程の追跡も行い、AFMによって可視化されたらせん高次構造との良い相関を示すX線散乱データを得ることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
吸収スペクトル測定による熱力学的パラメータ測定は非常に困難であったが、特別研究員のきめ細かい測定により、フォールディングメカニズムの解明につながる重要なデータを多く取得することができた。結果はすでに論文としてまとめられ、現在投稿中である。総じて、研究は予想を上回るペースで進展していると判断できる。
上記の結果を踏まえ、本プロジェクトの最終年度となる本年度は、当初の目的としていた複数構成分子の複合化に着手し、複合化による新規自己集合現象の発現を目指す。具体的には、複数の構造ドメインが1本鎖内に共存する超分子ポリマーを構築し、あるドメインを選択的に外部刺激によって摂動を与え、トポロジー変化を誘発する。さらに、異種分子が互いを認識することで、初めて特異的なトポロジーを有する超分子集合体を構築する系をデザインし、実験的に実証する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (45件) (うち国際学会 24件、 招待講演 7件)
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