研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
26102011
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
関 修平 京都大学, 工学研究科, 教授 (30273709)
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研究分担者 |
佐伯 昭紀 大阪大学, 産業科学研究所, その他 (10362625)
櫻井 庸明 京都大学, 工学研究科, 助教 (50632907)
酒巻 大輔 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (60722741)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | TRMC / TAS / ESR / 界面 / 化学ドープ / スピン / ポーラロン / ポーラロンペア |
研究実績の概要 |
2017年度は、研究計画のフェーズIIIとして、1)実際に電気を流す半導体・絶縁体界面での電子機能 (Intrinsic-π機能)の定量を目的とした電界誘起法(Field-Induced)によるFI-TRMC法を用いた電子材料評価、2)分子や集合体固有の力学特性・運動性 (Dynamic-π機能)を反映した電子輸送機能の評価、3)フレキシブル基板上で摩擦・粘弾性 (Elastic-π機能)の複合要因の結果として現れる分子積層構造変形と電子機能相関の評価、の3項目について昨年度に引き続き研究を進めた。特に、2次元発達共役系を有するグラフェンと、そのドメインサイズを精密制御した試料を用い、このドメイン内での実験的移動度を検証した。大気下において既に一定の面内密度を有するキャリアはプラズマ状態を示し、これに対する誘電損失特性によって本質的な移動度を定量すること、またキャリア輸送におけるドメイン境界でのキャリア散乱の寄与、をぞれぞれ指摘した。これに加えて、4)測定対象に化学的手法によって電荷ドーピングおこないつつ、マイクロ波による電気伝導度測定と電子スピン共鳴(ESR)によるキャリア数定量をin-situでおこなう新たな電荷移動度評価法、Chemical-Dope (CD) TRMC法の開発を終了した。これを踏まえて、特に分子集合構造・変形への物性反映が強く期待される共役高分子を対象として、伝導種のスピン―移動度の相関を明らかにする研究に着手した。ドーピング中におけるCD-TRMCと紫外可視吸収スペクトル―電子スピン共鳴スペクトルの3元分光法を完成させ、孤立したポーラロンの移動度が低いのに対し、スピンを持たないポーラロンペアが非常に高い移動度を示し、これが一定のキャリア密度化において主に伝導に寄与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者の移動に伴うESR運搬時の故障にも関わらず、CD-TRMC法の測定装置は前年度にほぼ試作が終了し、本格的な材料評価の段階に移行した。これを用いて、共役高分子中のキャリア種のスピン・エネルギー状態の完全実験定量を踏まえ、得られたデータについてすでに取りまとめて投稿段階にある。ESR-TRMCの両マイクロ波分光に加え過渡分光を組み合わせた3元複合分光として他に類を見ないシステムであり、キャリア輸送の全体像を明らかにする極めて強力な分光法でもある。さらに、開発済のFPおよびFI-TRMCを用いて多くの物質の電荷輸送特性の解明をおこない、多数の論文として発表した。この過程において、当初の計画では将来構想として挙げていた2次元共役電子系における特異な電子状態の指摘や、実際に幾何学的な構造を規定した2次元電子系が、その構造境界においてキャリア輸送の阻害を受けるという、「予想されていたが直接観測は極めて難しい」事象の観測にも成功した。上記理由により、本年度の進歩は当初計画以上であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、CD-TRMC法の適用範囲を広げ、現在用いている広く有機分子・無機との複合材料、特に従来の測定法では計測が困難な材料系を対象とした評価について、領域内外の研究者と協働して積極的に進める。特に、2017年度の予備検討により、従来までキャリア注入が困難であった電子を直接材料中に導入するための気化ドーピング剤の目途が立ったため、電子・正孔とそれらのスピン状態を包括的かつ同時に計測するシステムとして、研究終了時に広く公開できるようなシステム拡張を進める。また、FI-TRMC法において、共振周波数変調によって試料中に存在するキャリアトラップ・界面電子状態を直接かつ定量的に評価し、汎用計測機器としての実用化も念頭に入れた総仕上げを行う。
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