研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
26102013
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
木口 学 東京工業大学, 理学院, 教授 (70313020)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 単分子接合 / 伝導度 / π造形分子 / メモリ |
研究実績の概要 |
本年度は単一π造形分子の伝導特性の解明および伝導特性制御を行った。特にスマネン分子を用いて顕著な成果を得る事ができた。STMを用いて、Au表面上にスマネン分子が自己集積化した単分子膜を形成する事が分かった。またSTM像がバイアス電圧に依存して、ハチの巣構造と六角形の構造に変化する様子が観察された。理論計算を行い、状態密度、波動関数の空間分布、吸着エネルギー等を求め、実験結果と比較する事で、スマネン分子は上向きの配向"Bowl-up"でAu表面上に吸着している事、吸着サイトとしてatopとhollowが混在する超構造を形成している事が明らかとなった。更に観測された輝点を詳細に解析する事で、明るい輝点と暗い輝点の2種類の輝点が存在する事が明らかとなった。理論計算と比較する事で、明るい輝点は下向きの配向”Bowl-down”の吸着構造になっている事が分かった。続いて、探針誘起の吸着構造制御に挑戦した。探針をスマネン単分子に近づける事で安定な"Bowl-up"の状態から"Bowl-down"へ、逆に"Bowl-down"の状態から"Bowl-up"の状態へ可逆的にスイッチ出来た。興味深い事に、このスイッチ現象はバイアス電圧を小さくする程頻繁に観測された。この結果はスイッチは電子による振動励起などによって誘起されるのではなく、探針-分子間相互作用の増加により誘起された事を示している。バイアス電圧を小さくすると、トンネル電流を一定に保とうとするので探針-分子間の距離が小さくなり、探針-分子間相互作用が増加する。理論計算により、反転に伴う活性化エネルギーを評価したところ、表面上に吸着した状態から探針を近づけ分子接合のような形にする事によって、反転の活性化障壁が低減する事が明らかとなった。本年度は更に単分子接合の熱起電力計測装置も新たに構築し、フラーレンをはじめとする分子に適用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、単一π造形分子の構造および電子状態を解明するための計測装置として、単分子接合の表面増強ラマン散乱、電流―電圧計測、熱起電力計測装置など、独自の計測装置を開発してきた。これらの計測法をスマネン、フラーレンなどπ造形分子に適用し、その原子・電子構造を決定することに成功してきた。さらに、スマネン分子を用いることで、単一π造形分子にメモリ機能を賦与することを明らかにするなど、いくつかのπ造形分子から機能創出させることにも成功している。以上、計測法開発、物性、機能探索、両面から単一π造形分子の物性研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、種々の単一π造形分子の電気伝導度、熱起電力計測を行い、分子の基礎的な物性を明らかにしてきた。今後は単分子に積極的に応力を与えることで、単分子の物性を変調することに挑戦する。特に、今年度は力と伝導度、熱起電力の同時計測装置の開発を行う。力と伝導度、熱起電力の計測が可能になることで単分子に応力を与えた際の伝導、熱電特性の応答を調べることが可能になる。この計測によりA01,A02班によって合成されるπ造形分子から、巨大熱起電力、熱起電力スイッチなど応力誘起の新機能を引き出すことが期待できる。そして、これまで構築してきた単分子接合の電子状態計測法と組みわせることで、包括的に単一π造形分子の物性を解明できる。単一π造形分子の力と伝導度、熱起電力の同時計測を行うためには、原子間力顕微鏡(AFM)を電気計測が可能なように改良し、さらに電流アンプをより低電流まで計測できるように改良する。開発した計測装置を、巨大な熱起電力の発現が理論提案されている金属内包フラーレンやヘリセン分子などに適用する。
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